大気の循環


ハドレー循環。
(base on Kump, L. R. et al. The Earth System. Upper Saddle River, Prentice‐Hall, Inc., 1999. p.62)
地球は球形をしているため,地表が単位面積当たり受け取る太陽エネルギーは,低緯度で多く,高緯度で少ない。1735年,ハドレー[解説]は,この差が,地球全体の大気の運動の原因だと気づいた。彼によれば,赤道域の大気は暖められて上昇し,対流圏の上部を高緯度へ流れ,極域で下降して,上層大気とは逆に流れて赤道域に戻る。すなわち,北半球と南半球に1つずつ対流細胞がある。
ところが,気象学者たちが大気の運動を観測すると,中緯度に,蛇行する強い西風が発見された。この西風はジェット気流と呼ばれた。ジェット気流の原因は長いあいだ謎だった。しかし,ロスビー[解説]が,ハドレーのモデルには地球が自転が考慮されていことに気づいた。ジェット気流の原因は,地球の自転だった。
1950年代になると,シカゴ大学の研究者は,実験室で対流実験をして,大気の運動を再現しようとした。彼らは,丸い水槽の周囲を赤道,中心を極に見立て,水槽の周囲にヒーターを巻いて水を温め,中心部に冷却剤を流すパイプを取り付けて,温度差を作った。温度差が大きくなると,水槽内の水はハドレーが考えたような対流運動を始めた。

コリオリ効果。
(a) 地球の自転の速度は一定ではなく,赤道で最も速く,極で0になる。
(b) 自転により,赤道ではA→A´,中緯度ではB→B´と移動する。
空気がAから北に向かえば,自転を考えなければBに動くが,自転によりXに移動する。
(base on Kump, L. R. et al. The Earth System. Upper Saddle River, Prentice‐Hall, Inc., 1999. p.65)
彼らは,さらにこの水槽をターンテーブルの上に載せて,速度を変えて回転させた。回転速度が大きくなると,コリオリの力 (回転する物の上で動く物体にかかる力) により,対流運動はいくつかの対流細胞に分裂した。この実験は,地球大気を忠実に模したものではないが,温度勾配や回転運動が対流をどう変えるかを理解するためには重要である。
赤道付近では,真上から差し込む太陽エネルギーで大気は暖められて上昇し,気圧が下がる。この地域が,赤道低圧帯である。赤道で上昇した気流は緯度30° 付近で下降流になる。この地域が亜熱帯高圧帯で,サハラ砂漠などの乾燥地域が赤道と平行に帯状に分布する。中緯度から高緯度にかけても2つの対流細胞に分かれており,極地と中緯度の2つの対流細胞が接するところに,極前線という気団の境界がある。ジェット気流は,極前線の近くを流れている。
冬にジェット気流が蛇行して,日本列島上空で極前線が南下すると,北の寒気団も南下し,冬型の気圧配置になって日本海側で大雪が降る。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.