地球の誕生

地球は微惑星の衝突でできた

46億年前,宇宙空間をさまよっていた希薄な星間雲が収縮して原始太陽が形成された。原始太陽を取り巻いて円盤状の星雲がゆっくり回転していた。これが原始太陽系星雲である。原始太陽系星雲は時間とともに徐々に冷え,ガスから凝縮した塵の割合が増えていく。やがて塵は,ガスの抵抗により,太陽系の黄道面に沈殿していった。
円盤状の塵の密度が高まると,やがて重力不安定になり,直径10 km前後の微惑星の集まりになった。無数の微惑星は,太陽の回りを公転しているうちに,互いに衝突を繰り返し,その中でも衝突で破壊されなかったものが成長して惑星になった。これが現在の太陽系形成論である。
こうした惑星形成のシナリオは,理論的研究やシミュレーションから導かれた。これに対し,現在の惑星の姿や構成物質の研究は,こうしたシナリオを検証する重要な手がかりを提供している。
月や地球型惑星の表面には無数のクレーターがある。これらは微惑星衝突による惑星形成の名残りである。また,火星と木星の間にある小惑星は,成長しそこなった微惑星が現在まで残ったものである。

地球の成層構造の形成

地球のもとになった地球母天体も,多数の微惑星が集積して形成された。
地球母天体が成長するにつれて重力が大きくなり,微惑星の衝突速度が大きくなった。エネルギーは速度の2乗に比例するので,ますます多くの衝突エネルギーが放出されるようになった。
衝突で解放されたエネルギーは,放出物を出し,衝突地点の温度を上げ,岩石に衝撃を与えて揮発性物質を放出させた。衝突で放出された水 (水蒸気) や二酸化炭素などは,原始地球を覆う大気になった。
また,解放された熱エネルギーは,温室効果によって大気中に溜まり,地表の温度は上昇した。やがて,温度は岩石の融点を超え,マグマの海 (マグマ・オーシャン) が形成された。密度の大きい金属成分はマグマ・オーシャンの中を沈んで中心部に集まり,中心核になった。このように,微惑星の集積過程の結果,金属の核と岩石のマントルという,おおまかな成層構造ができあがった。

月の起源論

1960年代に,月の軌道の長期的変化を逆算する天体力学的研究がなされた。そうした計算によると,過去にさかのぼるほど月と地球の距離は接近し,月の公転は逆行していた。この計算結果から, “太陽の周りを回っていた月がたまたま地球に接近し,地球の重力圏に捕まった” という仮説が生まれた。
一方,1970年代の太陽系形成論の進展を受けて, “月は地球とほぼ同じ場所で,微惑星が集積して生まれた” とする仮説も出た。

ジャイアント・インパクトによる月生成のシミュレーション
(Melosh, H. J. “Giant impacts and the thermal state of the early Earth” . Origin of the Earth. Cambridge University Press, 1983. from 松井孝典ほか. 岩波講座 地球惑星科学1 地球惑星科学入門. 東京, 岩波書店, 1996. p.274)
1980年代に半ばになると,月の軌道が地球の赤道面に対して5.9° 傾いていること,平均密度が小さいことなど,さまざま証拠を踏まえて,新しい仮説が提案された。その仮説では, “火星サイズの微惑星が地球に衝突し,飛び散った物質が地球を周回する軌道をとり,それらが集まって月になった” としている。この仮説が生まれるまでは,学会には,このようなめったに起こらない出来事で惑星の性質を説明することを回避する雰囲気があった。しかし,地球に大きな月が存在すること自体が地球型惑星の中で特異な性質であること,この仮説が月に固有の現象を多く説明できることから,注目されるようになった。

38億年前にすでに海があった


最古の枕状溶岩 (イスア,グリーンランド)
(Photo by 増田俊明, 静岡大学理学部教授)

グリーンランド南部の衛星写真。赤い十字線+の中央がイスア。
(NASA)
西グリーンランドには,先カンブリア時代の変成岩が広く露出しているが,イスア地域には,比較的変成度の低い堆積岩や玄武岩が露出している場所があった。1970年代に,その形成年代は38億年前と測定され,地球最古の岩石試料を提供する場所として,地球表層環境の様子を読み解くうえで注目された。
イスア地域には礫岩・縞状鉄鉱床・炭酸塩岩などが分布しており,当時すでに,海や陸地があったことが示唆された。
1990年代に,日本の研究グループが詳細に地質を調査し,枕状溶岩の組織を残す玄武岩の露頭を発見した。枕状溶岩は,玄武岩質のマグマが海底に流出してできる岩なので,38億年前にすでに海があったことを裏づける直接的証拠として注目された。

さまざまな生物や鉱物の炭素同位体比。
(川上紳一. 生命と地球の共進化. 東京, 日本放送出版協会, 2000. p.79)

32–38億年前の資料の炭素同位体比。
(川上紳一. 生命と地球の共進化. 東京, 日本放送出版協会, 2000. p.80)
さらに,イスア地域から採集されたグラファイト (石墨) の炭素同位体比が測定され,グラファイトを構成する炭素が生物起源の有機物に由来する可能性が示唆されている。しかし,否定的な研究者もおり,議論が絶えない。
なお,西オーストラリアで,44億年前にできたとされる,ジルコンという鉱物粒子が見つかった。ジルコンは,地殻を構成する岩石に含まれる,風化に強い鉱物である。たった1粒の鉱物粒子の酸素同位体比の分析から当時すでに海があったことを示唆する証拠が得られている。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.