生物多様性の歴史

〝生物種〟 とは,交配によって子孫を生むことができる単位だ。現生の生物は,この定義に基づき種が認定される。
この定義は,本来なら絶滅生物にも適用したいところだが,絶滅生物に交配実験はできないので,別の便宜的な定義が必要だ。化石でしか調べられない絶滅生物の種は,化石の形態に基づき定義するしかない。

化石から種の多様性を探る


(a) 海生生物の種数。
(b) 露頭の面積。
(c) 堆積物の体積。
(Kump, L. R. et al. The Earth System. Upper Saddle River, Prentice‐Hall, Inc., 1999. p.198)
図に,化石記録から認定された生物種の,地質時代別の数を示した。この図によると,第三紀に生物種が多く,続いてデボン紀と白亜紀に多い。しかし,本当に,生物種はこの時代に高かったのか。
化石を含んだ地層が広く露出していれば,多くの種類の化石が見つかる。そこで,地質時代ごとに,露出する地層の面積や総量 (体積) を比較しなければならない。すると,認定されている生物種が多い時代は,地層の露出面積や体積が大きいことがわかる。

より高次の分類体系で検討する


海生無脊椎動物の見かけの多様性。
矢印は属レベルでの大量絶滅。
(Kump, L. R. et al. The Earth System. Upper Saddle River, Prentice‐Hall, Inc., 1999. p.200)
生物の分類では,種・属・科・目と,階層分類をする。近い生物種をより大きなまとまりにして属を定め,いくつかの属をひとまとまりにして科,と,階層的に分類されている。
属のレベルで海洋無脊椎動物の多様性をみると,カンブリア紀にとつぜん多様性が大きくなり,何回か多様性の激減するような出来事を乗り越えて,次第に多様性が増大してきている。この傾向は,科のレベルでもある。ペルム紀や白亜紀の終わりの生物大量絶滅によって,属や科のレベルでも多様性が減少したこともわかる。
一方,目のレベルで多様性をみると,カンブリア紀からオルドビス紀にかけては増加したが,それ以後はほとんど増加していない。

生物多様性のダイナミクス

生物の遺伝子の配列に突然変異が起こって新しい生物種が生まれ,それが自然選択により生き残ると種形成が起こる。その一方で,自然淘汰によって絶滅へと追いやられる生物種もある。種形成と絶滅によって,地球上の生物多様性は絶えず揺らいでいる。1年間に,約10種の新しい生物種が生まれ,ほぼ同じ数の生物種が絶滅している。
環境の激変などによって,多数の生物種が一斉に絶滅することを,生物大量絶滅という。しかし,環境が回復すると,短い期間に種形成によって多様性が回復し,新しい生態系が生み出される。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.