光合成の始まりと地球の酸素汚染

46億年前に地球が誕生した後,数億年以内に海ができた。海の中で,水素 (H2),メタン (CH4),ホルムアルデヒド (CH2O) などの簡単な分子からアミノ酸などの有機分子ができ,ついにはひとつの生命として機能するようになった。生命の誕生である。
生命は進化し続けた。約27億年前には光合成をする生命が現れ,盛んに酸素を発生した。その結果,地球環境は酸素に汚染され,地球は酸素に富んだ惑星に移り変わった。海水中に溶けていた鉄は,酸化されて沈殿し,鉄鉱床が形成された。世界各地の主要な鉄鉱床は,地球が酸素汚染されたことの物証でもある。

ストロマトライトという岩石

植物は細胞の中の葉緑体で光合成する。20億年以上前に,シアノバクテリアという光合成をするバクテリアが,真核細胞の中に入りこんで共生をし,やがて遺伝子の多くを失って葉緑体になった。
シアノバクテリアは,多数が集まって深緑色のマットを作った。そのマットに鉱物粒子が付着して,マッシュルーム型の岩石ができることがある。1960年に大規模なものが西オーストラリアのシャーク湾で発見された。
似た構造の堆積岩が先カンブリア時代の地層から数多く見つかっていて,ストロマトライトという名前で記載されてきた。しかし,ストロマトライトが化石なのか単なる縞々の地層なのかは様々な説があった。西オーストラリアでの発見によって,光合成して酸素を産む微生物が縞々の地層の表面をびっしり覆っていたことがわかった。
地層の記録を調べると,ストロマトライトは27億–6億年前に多く形成されたが,それより古い地層からはほとんど見つからない。このことから,27億年前以降に,浅海域にシアノバクテリアがマットを作るようになった。また,6億年前以後あまり見られなくなることは,地面を這い回ったり孔を掘ったりする動物が登場し,微生物のマットができにく環境に移り変わったからであろう。

縞状鉄鉱床の形成年代の意味

鉄分に富み,鉄鉱石の原料になる地層を,鉄鉱床という。先カンブリア時代に形成された鉄鉱床は,鉄に富んだ鉱物の層と細かい石英粒子が集まった層がくり返しているので,縞状鉄鉱床という。縞状鉄鉱床が堆積した年代を調べると,興味深いことがわかる。大規模な鉱床は全て27億–19億年前に形成されたからだ。地球を46歳の人にたとえると,縞状鉄鉱床は19歳から27歳にかけての青年時代に形成された。27億年前にシアノバクテリアのマットが地表を広く覆って盛んに光合成を始めた時期とうまく重なる。
19億年前以降になると,縞状鉄鉱床は形成されなくなった。おそらく海水中の鉄分がなくなって,シアノバクテリアが産んだ酸素は大気中へ逃げて酸素濃度を増やすようになったのだろう。縞状鉄鉱床は,シアノバクテリアが引き起こした地球環境の酸素汚染の物証だ。
この酸素汚染は,生物進化に非常に大きな影響を与えた。まず,生物は酸素呼吸ができるようになった。酸素は有機物と反応しやすいので生物にとっては利用しにくい。真核生物の祖先は,酸素呼吸を可能にしたバクテリアを細胞内にとりこんで共生を始めた。このバクテリアがミトコンドリアという酸素呼吸を担う細胞器官になった。その後も酸素濃度は増え続けた。やがて多細胞動物が出現し,その中には活発に動き廻って他の動物を捕食するものもいた。こうした生物の長い歴史は,シアノバクテリアなど光合成をする生物が生まれなかったら起こりえなかった。

キーワード

化学進化
原始地球で・水素・メタン・シアン化水素 (HCN)・ホルムアルデヒドなどから,複雑な有機分子が合成され,生命が誕生するまでの一連の化学反応を,化学進化という。核酸・糖・リボースという分子から,遺伝情報を担うRNAやDNAという分子が作られた。生物は自己複製やエネルギーを獲得するために,酵素を触媒に反応するが,そうした酵素はアミノ酸が集まったたんぱく質でできた。また,細胞は膜で包まれているが,細胞膜を作るには脂質が必要だ。化学進化で,生物に必須な物質が作られた。
シアノバクテリア
シアノバクテリアは,光合成するので,藍藻とも呼ばれたが,藻類と異なり遺伝子を納めた核がないことからバクテリア (細菌) の仲間だとみなされ,シアノバクテリアとかラン色細菌と呼ばれる。光合成で酸素を発生する生物の中では最も原始的な単細胞生物だ。シアノバクテリアは,集まって深緑色の微生物皮膜 (バイオマット) を作る。バイオマットは,温泉水の流れる河床で観察できる。

© 2002 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Nao Egawa.