小石を拾った少女マータ
宇宙からの手紙
 
★天からの贈り物
その日も、いつもと変わらない朝でした。
「今朝は寒くて風も強いから、気をつけてね」
家を出るとき、お母さんが声をかけました。
マータは、用心深くコートのえりを立て、玄関をとび出しました。
学校へ向かう道には、昇ったばかりの太陽の冬の日ざしが、弱々しくさしていました。
友だちと待ち合わせた橋まで来て、立ちどまりました。友だちはまだ来ていません。マータは風をさけるように、首をすぼめ、足もとを見つめました。
ぽーんと、小石をけってみました。小石は、コロンコロンと、かわいた音をたてて、こおった道にころがっていきます。
もうひとつけろうとして、マータはおやっ!?と思いました。周りの石とはちがう、黒ずんだ丸い石が目に入ったからです。
その石はたしかに、なにかがちがっていたのです。マータは手にとってみました。大きさはそれほど大きくはありませんが、そのわりには、ふつうの石よりもずっしりと重い感じです。
マータはその石を、コートのポケットに入れました。これといって、なにかに使うつもりもなかったのですが、なんとなく気になったのです。
まもなく、待ち合わせた友だちがやってきて、いつものようにおしゃべりをしながら学校へ向かったので、その後、石のことはすっかり忘れてしまっていました。
ところが家に帰ってコートをぬいだとき、重い感じがして、マータはやっと、ポケットの石のことを思い出したのでした。
(あらっ、すっかり忘れていたわ!)
マータは石をとり出して、机の上に置くと、じっと見つめました。こうしてよく見ると、やはりふつうの石と、どこかちがいます。
(こんなに小さいのに……。こんなに重い石ってはじめてだわ)
表面が少し黒ずんでいるだけで、なんのへんてつもないのですが、こうして机の上に置いてみると、まわりを圧するような感じさえするのです。「もしかすると、この石……隕石*かしら?」
思わず、声がとび出しました。
そのときです。
「たぶんそれは、宇宙からきみへの贈り物だ」
聞きおぼえのある、あの〈ルタン〉の声でした。夏休みに行った山の上で、星に見とれていたマータの前に、どこからともなく現われてきたミラクル博物館館長のルタン(le temps = 時間)の声だったのです。
たしか、夢のようなミラクルミュージアムで、ルタンの身がわりの〈コスモス教授〉に案内され、宇宙の始まりの世界を体験したことを、マータは思い出しました。
「あっ、……ルタンなのね!」
「思い出してくれたかね」
「やっぱり!」
「またまた、疑問が生まれたようだね」
「そう。この石のことなの。もしかして隕石じゃないかなーって……」
「どれどれ」
「もしこれが隕石だとしたら、これはどこから来たものなの?」
「もし隕石だったら、宇宙から来た手紙といってもいい」
「うれしいっ!で、手紙だったら、いったいどんなことが書いてあるの!」
「知りたいかい?」
「知りたい、とっても!」
「よーし。じゃ、案内するか」
ルタンがそういったとたん、とつぜん、つめたい風がほおをかすめました。
気がつくとマータは、いつのまにか、あのミラクルミュージアムの前に立っていたのです。

Copyright © 2002 Rironsha(理論社)