岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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メキシコのクレーター:
恐竜絶滅の30万年前に衝突か?
2004年4月26日

 6500万年前に地上から姿を消した恐竜たち。その原因は、直径10kmもの天体が地球に衝突し、環境の激変の中で、恐竜をはじめ多くの生物が死滅した。1980年、アメリカの研究者たちは、恐竜絶滅の天体衝突説を発表して地球科学の学界で大論争を巻き起こした。それから約10年後にメキシコのユカタン半島で6500万年前にできた直径180kmもの大きさのクレーターが発見され、恐竜を絶滅させた衝突がカリブ海で起こったことが明らかにされた。

 最近、プリンストン大学のケラー(G. Keller)らは、6500万年前にできたメキシコのクレーターでボーリング調査を行い、約1000メートルの長さの岩石試料を回収した(Keller et al., 2004)。この岩石試料を詳細に分析した結果、浅い海で堆積した石灰岩に続いて、天体衝突で粉々にくだけた岩石層(インパクトブレッチャ)が堆積し、その上に成層した石灰岩が50センチ堆積したあと、K/T境界を特徴づける粘土層が堆積していることが示された。

 ケラーらは、衝突で粉々になった岩石層と、生物が大量絶滅したときに堆積した地層(K/T境界層)の間の成層した石灰岩がゆっくり堆積したものであり、天体が衝突してから30万年が過ぎてから、生物の絶滅が起こったと発表した。

 これまでは、天体衝突が引き起こした環境の激変で、たくさんの生物が絶滅したと考えられてきた。だが、ケラーらの考えによれば、メキシコのクレーターは、恐竜などの生物絶滅よりも前の出来事であり、絶滅とは無縁だったことになる。では、恐竜の絶滅は、どうして起こったのか。ケラーらは、他の場所での天体衝突や大規模な火山噴火など、もう一度検討してみる必要性を訴えている。

 この研究で得られた重要な知見は、地球の歴史を記録した地層を詳しく調べ、天体衝突という出来事と生物絶滅という出来事の順序関係を明らかにし、2つの出来事の時間間隔を推定したことにある。2つの出来事に関連性があるのか、ないのかを突き止めるには、さらに岩石試料を確保して、検証していくことが必要だ。

文献
keller, G. (2004) Chicxulub impact predates the K-T boundary mass
extinction. Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 101, 3753-3758.