岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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現在の温暖な気候はあと1万年は継続する?
-南極氷床コアに記録された8回の氷期-間氷期サイクル-
2004年7月13日

 人類の時代である第四紀は、氷床が大きく発達した寒冷な氷期と、氷床が後退し温暖な気候が訪れた間氷期の繰り返しで特徴づけられる。これまでの研究によると、氷期と間氷期の繰り返しには、2万3000年、4万1000年、10万年といった周期性が認められ、地球の軌道要素や地軸の傾き角の変動による日射量の変動の周期性との対応が認められる。こうした周期性はミランコビッチサイクルと呼ばれているが、氷期と間氷期の訪れは、こうした天文学的なリズムがペースメーカーとなっていると考えられている。

 海底堆積物に記録された気候の歴史から、こうした気候変動の周期性が時代とともに移り変わっていることが示唆されている。100万年より前の時代の気候変動には地軸の傾き角の変動周期に対応する4万1000年の周期性が顕著であるのに対し、グリーンランドや南極の氷床コアの解析では、きれいな鋸歯状の変動パターンを示す10万年の周期性が顕著となる。

 2004年6月10日に発行された英国の科学雑誌「ネイチャー」に74万年前までさかのぼる新しい南極氷床コアの解析結果が発表された[1]。南極の氷床コアでこれまでに最長のものはボストーク基地で掘削されたもので過去40万年間の気候変動が解読されていたが、今回の解析に用いられたコアはこれを大きくしのぐもので、気候変動のパターンの時代変化について新しい知見が得られるものと期待された。

 まず、過去74万年間にわたる気候変動を復元した酸素同位体比の変動曲線には、10万年周期が認められたが、これまでに知られている過去40万年間の鋸歯状のきれいなパターンは、40万年前から74万年前についてはそれほど規則的ではないことが明らかにされた。こうした変動周期の移り変わりは、地球の気候システムの応答特性の変化を示唆するものであるが、得られたデータの詳細な解析と、気候システムの応答特性の変化の原因解明は今後の重要な課題となりそうだ。

 さて、今回の解析結果は、将来の長期的気候予測についても示唆を与えるものであった。43万年前の氷期から間氷期へと遷移(Termination V)のときの、日射量の変動パターンは、現在の日射量の変動パターンとよく似ており、将来の気候変動がこのときと同様に推移するのではないかという見方がある。40万年前ごろの海洋同位体ステージ11(MIS 11)においては、間氷期が長く2万8000年間を継続している。

 最終氷期が終わって現在まで約1万年の時間が経過した。この温暖期の継続期間が40万年前と同様2万8000年間続くとすれば、化石燃料の放出による温暖化を無視しても、あと1万年以上は温暖な気候が持続することになる。南極氷床コアの解析グループは、得られた結果をもとにそうした見解を述べている。

 だが、気候システムにはカオス的挙動も内在しているので、過去の事例が将来予測にそのまま適応できるという保証はない。先に述べたように、気候変動の周期性が時代とともに変化していることわけもまだわかっていないのだ。信頼性の高い気候変動の長期予測には気候システムのダイナミクスに関する理解を深めることが必要である。

[1] EPICA communitiy members (2004) Eight glacial cycles from an Antarctic ice core. Nature, 429, 623-628.