岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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35億年前の玄武岩質ガラスに残された
ミクロンサイズのチューブ状構造
-生命活動の新たな痕跡か?-
2004年7月22日

 地球生命の起源はどれくらい過去までさかのぼるのか? その答えを求めて古生物学者は先カンブリア時代の地層の上をさまよい歩き生命の痕跡を探し求めてきた。最古の生命化石としては、約35億年前の西オーストラリアのピルバラ地塊の黒色チャート層に含まれる細胞状の構造物が知られている。その発見は1980年代にもたらされたが、問題の細胞状の物質が本当に細胞化石なのかは、最近になっても新たな論争に発展している[1,2]。

 こうした中で、南アフリカの35億年前の玄武岩質ガラスに新たな生命活動の痕跡が発見されたとする論文が発表された[3]。研究を行ったのは、ノルウエーのベルゲン大学のH.Furnesらの研究グループで、南アフリカのバーバートングリーンストーンベルトで採集した玄武岩質ガラスに残された微小なチューブ状の腐植構造が生命活動の痕跡だと主張している。

 彼らは長年現在の海洋底から採集された玄武岩質ガラスの研究を行ってきた。玄武岩質ガラスには、太さ数ミクロン、長さ数百ミクロンのチューブ状構造があり、こうした構造に付随して有機物が存在していたり、炭素や窒素の濃集していることを調べあげ、微生物の活動によってガラスがチューブ状に腐植してできたことを明らかにしたてきた。

 今回、同様の方法で35億年前の玄武岩質ガラスを調べ、ミクロンスケールのチューブ状構造が発見された。新しい玄武岩質ガラスと同様有機物が含まれていることや、高い炭素、窒素含有量、さらに炭素同位体比が生物起源を示唆する低い値をとっていることを示し、チューブ状構造が生命活動の痕跡であることを裏づけようとしている。

 こうした研究に対する古生物学者の反応はさまざまであり、生命活動の痕跡を示す新たな証拠が見つかったとして歓迎する立場と、形態が似ているからといってそれが生命活動の証拠となるのか疑問視する声もある。こうした見解の相違は、先カンブリア時代の化石記録の解釈を巡っていつもついてまわる事態である。

 だが、似たようなチューブ状構造は火星起源隕石中のかんらん石でもみられるといわれると話は違ってくる。地球生命の新たな痕跡は、地球外物質の新たな見直しを要求する。新たな試料を確保して詳細に分析して彼らの主張を注意深く検証し、より確固とした生命活動の認定基準を確立していくことが必要だ。

[1]Schopf, J.W. et al.: Laser-Raman imagery of Earth's earliest fossils. Nature, 416, 73-76.
[2]Brasier, M.D. et al.: Questioning the evidence for Earth's oldest fossils. Nature, 416, 76-81.
[3]Furnes, H. et al. : Early life recorded in Archean pillow lavas. Nature, 304, 578-581(2004).