岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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中国南部陸棚石灰岩に記録された
三畳紀初期の炭素循環変動
-ペルム紀末の生物大量絶滅後の生態系回復過程との関連性- 2004年9月16日

 今から2億5000万年前のペルム紀-三畳紀境界で起こった生物大量絶滅事件は、顕生代における最大規模のものであったと考えられている。大規模天体衝突、シベリア洪水玄武岩の活動、海底ガスハイドレートの大規模融解による環境激変が生物大量絶滅の原因であったとする説がある。

 海底ガスハイドレートの大規模融解の証拠として、ペルム紀-三畳紀境界の生物大量絶滅が起こった時期に、炭酸塩岩の炭素同位体比が大きく負の値にシフトしていることが挙げられてきた。

 ハーバード大学のJ. L. Payneらの研究グループ[1]は、ベトナム国境に近い中国南部の三畳紀初期の陸棚石灰岩に記録された炭素同位体比変動曲線を復元し、ペルム紀末の生物大量絶滅の原因と、大量絶滅後による生態系の崩壊から回復するのに数百万年要したことの理由を探っている。

 彼らが導いた結果を見ると、ペルム紀末から三畳紀初期の約400万年間に、最大+8‰から-4‰まで、炭素同位体比の値が正の値と負の間を少なくとも4回大きく揺らいでいることが示された。このことは、ペルム紀末の生物大量絶滅の時の炭素同位体比の大きな負の値へのシフトは単発的な出来事ではなく、その後の三畳紀初期にかけて続いた一連の炭素循環のなかの一つのフェーズとみなすべきであることを示唆している。また、生態系の回復が三畳紀中期にまで遅れたことの理由も炭素循環の変動と密接に関連していることが示唆された。なぜ、炭素同位体比が大きく正と負の値のあいだを行ったり来たりしているかは深く検討されていないが、変動パターンが鋸歯状ではなく、低下と上昇が対称的であることは、海底ガスハイドレートの大規模融けだしが原因ではなさそうである。