岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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5500万年前の突発的温暖化事件
大規模海底火成活動にともなって
ガスハイドレートが大量に融け出した!
2004年9月18日

 海底堆積物コアの解析によると、今から5500万年前に石灰質微化石の炭素、酸素同位体比が急激に負の値にシフトしている。このとき、グローバルスケールで気温上昇があり、その大きさは6-8℃と推定されている。この温暖化事件で炭素同位体比が大きく負の値にシフトしていることから、海底のガスハイドレートが大量に融け出して、大気中のメタンガス濃度が高まったことが原因であると考えられてきた。しかしながら、なぜ海底のガスハイドレートが大量に融けだしたのかは、これまでよくわかっていなかった。

 ノルウエーのオスロ大学の研究グループは、ノルウエー海において反射法地震探査実験を行い、得られたデータの解析からこの地域に735個の熱水噴出孔を確認した[1]。彼らは、これらの噴出孔から大量のメタンの融け出しがあったと論じている。

 ノルウエー海は、北大西洋の拡大にともなってできた海盆であり、海洋底拡大にともなって、5500万年前に大規模火成活動があった。このときマントルから上昇してきたマグマは堆積物中に流れ込み、大規模なシルを形成した。このマグマから放出された熱によってガスハイドレートの融けだしが起こり、その噴出孔が確認されたというわけである。

 この研究によって、北大西洋における洪水玄武岩の活動と地球温暖化事件を関連づけるデータが提示されたことはたいへん重要である。これまでにいくつかの地質時代で炭素同位体比の急激な負のシフトが確認されており、その原因としてガスハイドレートの大規模融けだしが考えられてきた。こうした事件でも、大規模洪水玄武岩の活動がガスハイドレートの融けだしのような現象を誘発したのか、今後の研究が注目される。

[1] Svensen, H. et al. (2004) Release of methane from a volcanic basin as a mechanism for initial Eocene global warming. Nature, 429, 542-545.