岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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T.レックスが巨大化したわけ
-恐竜の骨の成長縞からさぐる成長速度-
2004年月日


 中生代に全盛を迎えた恐竜たちの繁栄ぶりを、私たちはその巨大化した姿に重ねて実感しているが、恐竜がどうしてあんなに巨大な姿になったのかと聞かれると、答えに困ってしまう。だが、近年の恐竜研究は、そうした生き物としての恐竜の姿を新しい切り口で復元しようとしている。

 フロリダ大学のG.M. Eriksonらの研究グループ[1]は、骨の組織や成長縞を手がかりに恐竜の成長様式の研究に取り組んでいる。今回、彼らはチラノザウルス科に属する複数の恐竜の成長様式を解析し、T.レックスだけがどうして巨大化したのかを明らかにした。

 Eriksonらは、T.レックスを含むチラノザウルス科に属する4種類について、複数の完全個体から骨試料を取りだし、顕微鏡観察によって成長縞を解析して、それぞれの死亡年齢を割り出した。また、骨格サイズと体重の関係を表す相似則を用いて体重を計算し、年齢と体重の関係をグラフ化した。チラノザウルス科の恐竜の成長様式は従来の研究[2]で明らかにされているように、いずれもS字型の成長曲線で表される。

 幼齢期にはどの種も似たような成長を示すが、体型が巨大化したT.レックスだけが年齢が15才を過ぎたころから急激に成長して体重が5,000kgにまで達しているが、残りの種については急激な成長期がなく成長をとげた個体の体重はせいぜい1,000-2,000kgにしかならない。このことは、T.レックスにみる恐竜の巨大化は、加速的成長期が重要な役割を果たしたことを示唆している。

 Eriksonらの解析結果によると、T.レックスの寿命は28才で、加速的成長期における成長速度は1日当たり2.1kgである。体型が大型化した他の恐竜の分類群についても、急激な成長期が認められるか、そして1日当たりの成長速度の最大値がどれくらいを見積もることは今後の興味深い課題である。

[1] Erikson, G.M. et al. (2004) Gigantism and comparative life-history parameters of tyrannosaurid dinosaurs. Nature, 430, 772-774.
[2] Erikson, G. M. et al. (2001) Dinosaurian growth patterns and rapid avian growth rates. Nature, 412, 429-433.

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