岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
理科教材データベース
植物の進化
3億8500万年前の最古の種子の化石
2004年11月07日

 ベルギーでは最古の種子植物化石がいくつも発見されているが、今回、Gerrienneet al. (2004)が記載したRuncariaは、従来知られている種子の化石よりも古い形態をとどめており、その産出年代も従来よりも2000万年も古い3億8500万年前のものである[1]。

 植物は胞子でふえるコケ植物、シダ植物と、種子をつくる種子植物に分けられる。種子植物は胞子でふえる植物が進化したものと考えられている。現在棲息する種子植物は、おしべでできる花粉がめしべについて受粉し、種子の中心にある珠心で受精が行われる。すなわち、種子植物の祖先となった胞子でふえる植物で、胞子に雌雄性が生じて、大きな胞子(大胞子)をつくる大胞子嚢である種子と、小さな胞子をつくる(小胞子嚢)おしべのやくの原形ができあがったものと考えられる[2]。

 さらに種子のつくりを調べると、開裂しない胞子嚢や花粉管といった器官が新たに形成されていることがわかる。すわなち、大胞子が開裂しない胞子嚢でつくられ、おしべでつくられた小胞子(花粉)が花粉管を通って大胞子と出会って受精するしくみができあがっている。

 こうした植物の進化のシナリオは、地層から産出する新たな化石によって検証されることになる。Runcariaという化石の記載によると、この種子にはねじれたリボン状の珠皮に包まれた大胞子嚢があり、大胞子嚢は垂直方向に伸びて珠皮から頂部をのぞかせていて、まだ珠孔の発達はみられない。こうした構造は、花粉が風によって運ばれて受粉が行われたことを示唆している。

 大胞子嚢はクープル(cupule)という葉状の器官で囲まれて保護されていることも興味深い形態である。Runcaria化石は、種子植物の種子がどのようにつくられたのかを探る重要な手がかりを提供している。

 なお、植物のつくりやはたらきについては、中学校理科で学習するが、植物の進化という視点でマツやイチョウの種子を調べることができたら、学習が楽しくなるのではないだろうか。

[1] Gerrienne, P. et al. (2004) Runcaria, a midle Devonian seed plant precursor. Science, 306, 856-858.
[2] 戸部博(1994) 植物自然史、朝倉書店。