岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
理科教材データベース
書評:素数に憑かれた人たち-リーマン予想への挑戦
ジョン・ダービーシャ著、松浦俊夫輔訳、日経BP社、2004年8月31日
2004年11月10日

 10までの数のなかにある素数といえば2、3、5、7の4つである。20までは8個。1000までぐらいなら順番に調べることができるが、100万まではとか10兆まではと聞かれたら困ってしまう。リーマン予想とは、Nまでの数にいくつ素数があるかということと関連した数学の仮説である。それは1859年にドイツの数学者ベルンハルト・リーマンがアカデミーの会員になったときに発表した短い論文に書かれている。リーマン予想というわけは、リーマンがそれを証明せずに論文で発表したからだ。それから150年もの歳月が流れたがまだ証明されていない。それが正しいのか間違っているのかすら、一流の数学者にさえわからないのだ。

 本書は、リーマン、オイラー、ヒルベルトなど、リーマン予想に関わる数学者たちの探求の物語である。この物語を語ろうとすると、リーマン予想とは何かを説明しなくてはならない。ところがそれは、「ゼータ関数の自明でないゼロ点の実数部はすべて1/2である」というようなもので、数学の専門家でない読者には、ゼータ関数、自明でない、実数部などといわれてもちんぷんかんぷんである。

 ダービーシャは、本書の奇数章を数学の概念のやさしい解説、偶数ページに登場人物のエピソードや歴史の話を配列し、心地よいテンポで物語を語っていく。リーマン予想が、単に整数の性質だけでなく、級数や関数、指数関数や対数関数などと関係し、20世紀になると量子物理学の世界とも関わっていることが示されていく。読み進むにつれて、素数の数がどれくらいあるかという問題がどんどん広がりを見せていき、リーマン予想を証明することで、なにか自然界の不思議な性質が解き明かされていきそうな予感がして、つい数学の章も推理小説さながら読み進んでしまう。読者は細かい数学の証明なんか気にせずに、「これは誰々によって証明されていることです。」といわれたら、そういうものかと思ってストーリーをフォローしていけばよいわけだ。

 やがて、19世紀や20世紀に活躍した数学者がどのような人物で、なにを問題にし、どういうことを成し遂げたのかが見えてくる。数学というものは難解で、数学者の言っていることはわけがわからず、日常生活では奇抜な行動をして周囲の人々を困らせたりする。そんな数学者に対する一般的イメージから離れ、一流の数学者の頭のなかを覗き込んで、彼らが何に取り組んでいるのか、わかったような気分にさせてくれるのだ。

 しかも150年以上にわたる数学者の努力、それにも関わらず解決されていない問題にチャレンジし、はなばなしい成功によって理解が深まっていく過程。一つひとつの成果がどういうことかに重点がおかれているので、数学の世界がわからなくても雰囲気は伝わってくる。数学的探求が知的興奮をともなうもので、学生のときにこんな本を読んだら数学の虜になってしまったにちがいない。