岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
理科教材データベース
脳科学と教育の出会い
−「新世紀型理数科系教育の展開研究」秋季全体会議報告−
2004年11月29日

 2004年11月22日と23日の2日間、仙台市内の秋保温泉ホテルクレセントで標記研究集会が開催され、招待講演に招かれた小泉英明氏、二木和久氏や川島隆太氏ら脳科学の専門家たちと、この研究プロジェクトの公募研究関係者約100名が交流を深めた。

 新しい脳計測機器が開発され、脳の活動度をイメージングすることが可能になり、さまざまな刺激に対する脳の活動領域の解明が進んでいる。単純な計算をしているとき、言葉で思考しているとき、パソコンゲームをしているときで、活動している脳領域が異なっている。逆に、どのような行動をしたら脳が活性化するかという研究も始まっており、痴呆の進行を行わせるトレーニングなども開発されている。

 こうした研究が進むと、脳の成長を促す教育プログラムがどのようなものかが見えてくる可能性がある。今後脳科学は教育や社会学の分野へも波及効果をもたらすようになると期待されており、科学技術政策の大きな柱として推進されている。そうした状況を踏まえ、脳科学の最近の進歩を学び取り、新しい知見を教育分野へ生かすことを目指して今回研究集会が開催された。

 新世紀型理数科系教育の展開研究に携わる研究者は、わが国の理科離れ、理科嫌いを食い止めるため、教育学の専門から離れたところで研究を行ってきた数学者、理工学分野の研究者が多く集まって先進的研究を進めている。だが、脳科学についてはこれまでほとんどまったくなじみがない人たちの集団である。新しい科学の動向に接し、脳科学の進歩によって脳活動の諸要素がどんどん解明されていくような気になり、記憶のしくみ、創造性、パターン認識など、多岐にわたる活動がどのように脳機能と関わっているのか質問を投げかけた。逆に理数科系教育の研究者からは脳科学にどのようなことを期待しているのかについてメッセージが提示された。

 こうした異分野の交流で連携していくためには、まずお互いに専門用語などの言葉や概念を理解し、双方がどのような実験や測定、あるいは調査ができるかを知らなければならない。そうした土壌のうえに、新たな連携課題が見えてくるからだ。たとえば、参加者の多くは、創造的な営みがどのような脳のしくみによるものなのか。そして創造性を高めるための脳活動を刺激するにはどのような方法があるのか興味を抱いた。しかし、創造性という言葉にもさまざまな階層があり、単純な問題解決から、ノーベル賞を受賞するような高度な学術研究活動まである。だから創造性を高めるといっても、どのような創造性なのかをきちんと定義してから議論をしていく必要がある。

 創造性を高めるには、学習意欲を高め、好奇心を抱かせるような教材で、探求活動に取り組ませることが有効であると考えられてきた。そのためには、自然の美しさや驚異を訴えかけるような迫力のある画像や映像が役に立つに違いない。これまで3年間にそうした素材集めを中心に新世紀型理数科系教育の展開研究に関わってきたが、そうした方向性は間違っていなかったという感触を抱くことができた。次の課題は、興味や関心を抱いた学習者に持続的な探究活動を刺激して創造性を高めるような教材開発である。そうした教材開発は一筋縄ではいかないことはいうまでもない。しかし、いずれはそうした教材を一つでも多く作って脳科学の手法で有効性を検証するような取り組みに参加してみたいという思いを抱いて仙台からもどってくることができた。