岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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スノーボール・アース:スターチアン氷河時代の年代測定
-アイダホ州南東部に露出するポカテロ層中の火山灰層に含まれるジルコンU-Pb年代-
2004年12月06日


 世界各地に分布する先カンブリア時代後期の氷河堆積物が同じ年代を示すのか、それともばらばらの年代を示すのかに注目が集まっている。もしスノーボール・アース仮説が正しければ、それらの年代は全球凍結時代に集中して形成されたことになる。逆に、年代値のばらつきが大きければこの仮説の致命的な反論材料になる。

 Fanning and Link (2004)は、アイダホ州南東部のポカテロ層に記録された氷河時代がいつだったのかを明らかにした[1]。この地層には氷河堆積物やキャップカーボネートが含まれており、当時の火山活動によってもたらされた火山灰層がところどころに含まれている。彼らは、それらからジルコンという放射年代測定に通常用いられる鉱物を採集し、オーストラリア国立大学のSHRIMPという質量分析装置で年代測定を試みた。得られた年代値は、7億1700万年前、7億900万年前、そして6億8500万年前というものだ。

 これらの値は、ポカテロ層の氷河堆積物がスターチアン氷河時代のものであるとする従来の地層の対比を裏づけるものであり、スターチアン氷河時代は7億1700万年前から6億8500万年前までの間に起こったことが示唆された。

 従来スターチアン氷河堆積物に対比されると見なされていた氷河堆積物については、オマーンのグバラー氷河堆積物(Ghubarah diamictite)が、7億2300万年前と見積もられている[2]。また、最近行われた中国南部に露出するスターチアン氷河時代のものとされる氷河堆積物の年代は、7億6100万年前から6億6300万年前にかけての間に形成されたものであると見積もられている[3]。今回、Fanning and Link (2004)が発表したデータは、これまでの年代測定値と矛盾しておらず、スターチアン氷河時代の年代がさらにきつく絞り込まれたかっこうだ。

 なお、火山灰をもたらした活動は、ローレンシア大陸の分裂にともなうものであると解釈されている。すなわち、今回得られたデータによると、この地域の大陸分裂が7億1700万年前から6億8500万年前に起こったことになり、従来の従来大陸分裂の年代とされていた8億年前から7億5000万年前であるという見解については、見直しが迫られることになるだろう。

文献

[1] Fanning, C. M., and P. K. Link (2004) U-Pb SHRIMP ages of Neoproterozoic (Sturtian) glaciogenic Pocatello Formation, southeastern Idaho. Geology, 32, 881-884.
[2] Brasier, M., G. McCarron, R. Tucker, J. Leather, P. Allen, G. Shields (2000) New U-Pb zircon dates for the Neoproterozoic Ghubrah glaciation and for the top of the Huqf Supergroup, Oman. Geology, 28, 175-178.
[3] Zhou, C., R. D. Tucker, S. Xiao, Z. Peng, X. Yuan, and Z. Chen (2004) New constraints on the ages of Neoproterozoic glaciations in south China. Geology, 32, 437-440.