2005年1月1日は日本列島に寒気が流れ込んだ。太平洋沿岸の海水は温暖な状態が続いていたため、海面に温暖な大気、上空に寒冷な大気が存在し、これらの接する高度に温度が高度とともに徐々に変化する境界層が形成された。この境界層のいたずらであちこちで蜃気楼が見られた。
神戸に滞在していた松川利行さんは、神戸沖で見られた蜃気楼を撮影している(図1)
松川さんの浮島は、距離30kmのところにある。観察した場所はマンションの22階のベランダということで、境界層よりも高い位置で蜃気楼を見ている。地表付近の温度を10-15度として、上空の温度を6度として、さまざまな高度に境界層を与えて蜃気楼のシミュレーションを行ってみた。いろいろな温度構造に対し、倒立像のうえに正立像が重なる蜃気楼ができることがわかった。
一方、地学の学生の立溝真季子さんが撮影した伊勢湾の蜃気楼(図2)は、現在建設中の中部国際空港であると判断された。その距離は25km。こちらは、観察者は海岸にいるために蜃気楼が現れる条件が厳しい。
まずいろいろな温度構造を与えても、倒立の像がみられるのは25kmより近い場所の対象物に限られることがわかった。観察者が津なので、対岸の知多半島は30kmになり、対岸の蜃気楼は見られないと考えられる。これは対岸の景色がみられないという写真の状況と一致している。これが対象が中部国際空港であると判断した第1の根拠である。次に25kmの距離にある対象物が広く見えているので、工事現場が幅5kmぐらいに及んでいると考えられる。こうした工事現場の広がりは空港建設と符合していると判断された。
温度については下層6度、上層12度としたが、その高度は地表から1.5mから18mの高度の領域にあると推定できた。
なお、この計算は、現在卒業研究で蜃気楼のシミュレーションを行っている丸山あゆみさんの研究成果に基づいている。 |
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