岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
理科教材データベース
熱帯雨林の植物は
日の出や日没の時間変化を知覚して開花する
2005年3月14日

 わたしたちの身のまわりにある植物は,季節によって花が咲く時期が違っている.オオイヌノフグリ,ナズナ,ハコベは春の花の代表であり,キクやヒガンバナは秋の花の代表である.こうした植物はどのようにして開花時期を知覚しているのかといえば,気温,降水量などの気象因子によって発芽や開花をはじめるものもあるが,キクのように太陽が出ている時間の長さの変化に対応して開花する植物もあるに違いない.

 では,季節変化のない赤道直下の熱帯雨林では,植物の開花時期はどのように制御されているのか.アメリカのカンザス大学のボーチャートら生態学者は,赤道直下の植物は日の出や日没時間を察知して開花を促しているという説を提案した[1].

 熱帯雨林の植物は,毎年ある時期になると一斉開花することが知られている.高木樹では1ヘクタールに一本というように個体数が少ないため,一斉に開花して個体間で花粉をやりとりすることが種の繁栄にとって重要である.日本のように四季の変化が激しい地域では,植物は季節の変化を感じ取ることは容易であるが,赤道直下ではそうした変化はごくわずかである.また,キクのように昼と夜の長さの違いによって開花時期を知覚する植物も,赤道直下では昼と夜の長さの変化はわずかであり,そうした変化によって開花が促されるとは考えにくい.

 ボーチャートらは,昼と夜の変化はわずかであるが,日の出時間と日の入り時間は30分以上もずれることに着目し,開花時期との対応関係を調べた.熱帯雨林の植物には,春分や秋分の時期に一斉開花するものがあり,それらは日の出や日没時間が大きく変化する時期に開花を促していることが示された.毎年春と秋の二回開花する種は,こうした考えを裏づけていて,説得力ある説のようにみえる.

 さて,四季の変化に富む日本列島で生活していると,とかく季節の移り変わりを当たり前のように考えがちである.熱帯雨林の植物が生存戦略として,地軸の傾き角や地球軌道のわずかな円からのずれを利用して,開花時期を決めていることはたいへん驚くべきことではないだろうか.また,身近な動植物のなにげない生活環にも地球環境のわずかな変化を感知するしくみが備わっているというのはすごいことだ.

 では,熱帯の植物はどのように日の出の時間を読み取っているのか? これはまだ未解明の課題であり,今後生物時計に関する分子生物学的研究がこの謎を解き明かしてくれるに違いない.

[1] Borchert, R. et al. (2005) Nature, 433, 627-629.