岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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18億5000万年前の天体衝突事件を記録した
地層の発見
2005年4月27日

 地層は地球の歴史を記録した記録テープのようなものである。地質学者は、地層の積み重なり方を詳しく調べ、過去にどのような出来事があったかを調べていく。こうした研究でもっとも注目されたのは、イタリアの山中に露出している6500万年前の粘土層であり、イリジウムが高い濃度で含まれていることから当時巨大な小惑星が地球に激突したのではないかと提案された。この地層の堆積した時期に恐竜などの中生代に繁栄した生物が一斉に絶滅しており、こうした生物大量絶滅が天体衝突によってもたらされたとして注目された。

 カナダの地質学者たちは、スペリオル湖周辺に分布する先カンブリア時代(原生代)の地層から18億5000年前に天体衝突があったことを突き止めた。調査の対象となった地層は、19億年前に堆積したカナダのガンフリント縞状鉄鉱床とアメリカのビワビク縞状鉄鉱床である。これらの地層は水平距離にして250km離れた場所に露出しているが、堆積している地層の特徴から同時代のものであると考えられてきた。

 カナダの地質学者たちは、これらの地層をボーリングし、柱状岩石試料(コア)を回収し、こうした地層にどのような出来事が記録されているか調べていった。火山灰層が含まれている場合には、ジルコンという鉱物を探し、U-Pb年代測定を行ってこれらの地層がいつ堆積したのかを推定する。

 今回発見された衝突で飛び散った地層は、厚さが25cmから70cmもある厚いもので、縞状鉄鉱床とそれを覆う砕屑岩層の境界部に含まれており、一見火山性堆積物のような特徴を示している。しかし、含まれる鉱物粒子を顕微鏡で観察すると、ラメラ構造をもつ石英粒子など、天体衝突にともなう衝撃波によって形成されたとされる変形組織が認められ、天体衝突によってできた巨大な隕石孔から飛び散った岩石の層であることが照明された。

 この地層が形成された年代は、上下の地層に含まれる火山灰層のU-Pb年代測定によって18億7800万年前から18億3600万年前までの間である。また、2つの地域でエジェクタ層が発見されたことはガンフリントとビワビクが同時に堆積した地層であることを裏づけた。

 さて、この地層をもたらした衝突はどこで起こったのか。地球の歴史をさかのぼると残された記録は断片的になり、衝突でできた構造とそこから飛び散った地層がともに見つかる事例はそれほど多くなく、先カンブリア時代については、6億年前の南オーストラリアの衝突構造レイク・アクラマンから飛び散った地層が東に広がるフリンダース山脈で発見された例があるだけである。

 ガンフリント縞状鉄鉱床が形成された時代にできた衝突構造としては、カナダのオンタリオにあるサドベリー衝突構造が知られている。これは直径が260kmもある巨大な衝突構造であり、しかもその形成年代が18億5000万年前とされ、今回発見された地層の年代とほぼ符合する。サドベリーからエジェクタ層が発見された地層までの距離は650〜875kmもあるが、サドベリー衝突構造が巨大であるので、厚いエジェクタ層の堆積しているという事実も両者の対応関係を示唆しているように見える。

 ガンフリント縞状鉄鉱床は、先カンブリア時代の微生物化石が最初に発見された地層として、地質学者のあいだではたいへん有名な地層である。この地層に新しい発見がもたらされ、この衝突事件と微生物生態系の変動や生物が大量絶滅した可能性など、新たな関心を呼びそうだ。