岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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マリノアン氷河時代は1200万年間続いた
氷河堆積物とキャップカーボネートの境界における
イリジウムの濃度異常の発見
2005年5月20日

 原生代後期には繰り返し氷河時代が訪れたが、そのうちのスターチアン氷河時代とマリノアン氷河時代については、地球表面が全面的に凍結したという仮説が提示され、様々な検証作業が行われている。オーストリアの研究グループはアフリカのコンゴやザンビアに露出する氷河堆積物とそれを覆う炭酸塩岩(キャップカーボネート)のコア試料を確保し、イリジウムなどの白金属元素の分析を行った。

 この研究では、キプシ(Kipushi)地域に露出するマリノアン氷河時代末、スターチアン氷河時代末、およびチャンビシ(Chambishi)地域に露出するスターチアン時代末の地層について分析を行っている(図1,2)。

 マリノアン氷河時代末の地層は、グバ(Nguba)層群と呼ばれている。ここでは2ppb (ppb=10億分の1)に達する高い濃度のイリジウムが含まれており、しかもそれは氷河堆積物とキャップカーボネートの境界部に相当している。この高いイリジウム濃度の解釈については、堆積速度の低下とか、海洋の酸素欠乏状態などいくつかの可能性があるが、クロムとイリジウムの比率や金とイリジウムの比率などがコンドライト質隕石の成分比と同じであることから、氷河時代に氷床に降り積もった宇宙物質が氷の融解によって氷河堆積物の上面に蓄積されたことが示唆された。

 一方、スターチアン氷河時代については、キブシ地域のクンデルング(Kundelungu)層群とチャビシ地域のグバ層群で分析が行われた結果、いずれも高い濃度のイリジウムの存在が示された。しかし、その層準がマリノアン氷河時代のように、氷河堆積物とキャップカーボネートの境界部から数十センチ上位にずれており、イリジウムの蓄積は宇宙塵によるものであることはともかく、キャップカーボネートの堆積過程が単純ではないことを浮き彫りにした。

 さて、宇宙から地球表面に降り積もってくる物質は、現在も過去もあまり変わらなかったとすれば、イリジウムの存在量から氷河時代にどれくらい時間が経過したかを見積もることができる。現在の海底堆積物中のイリジウムの存在量から、宇宙からやってくるイリジウムのフラックスは、百万年当たり3〜8ng/cm2(ng=ナノグラム)である。マリノアン氷河時代末の地層に含まれるイリジウムを単位面積に換算すると93ngでり、マリノアン氷河時代の長さとして1200万年から4100万年という値がはじき出された。

 こうした見積もりは、地球が完全に凍結してから融解するのに必要な0.12気圧に達する二酸化炭素が大気中に蓄積するまでに要する時間と符合しており、氷河時代が長期間継続したことが裏づけられた。