岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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オマーンの原生代後期氷河堆積物も
赤道域で堆積したことが実証された!
2005年7月22日

 原生代後期の氷河堆積物は世界各地に分布しており、この時代に地球の気候が寒冷化へと向かい、表面が全面的に凍結したとする仮説(全球凍結仮説)が注目されている。とりわけ、1980年代から繰り返し実施された南オーストラリアに露出する氷河堆積物の古地磁気学的研究によって、氷河が赤道域にまで発達したことが確かめられており、この時代の氷河時代の厳しさを示す重要な証拠とみなされてきた。最近になって、オックスフォード大学の研究グループによって、オマーンに露出する原生代後期の氷河堆積物とキャップカーボネートの古地磁気学的研究が行われ、ここでも氷河が赤道域で発達したことが示された[1]。

 オマーンに露出する原生代後期の地層はフック超層群(Huqf Supergroup)と呼ばれており、一連の地層の中に2つの層準で氷河堆積物が確認されている。下位の地層はグブラー層(Ghubrah Formation)、上位の地層はフィック層(Fiq Formation)と呼ばれ、それぞれスターチアン氷河時代、マリノアン氷河時代に対応するという見解がある。今回測定に用いられた岩石の多くはフィック層とそれを覆うキャップカーボネート(ハダッシュ層)で採集された。得られた結果によると、これらの地層は当時南緯13度で形成されたことになり、信頼性の高い古地磁気学的データとしては南オーストラリアに続いて2例目となる。

 ここで興味深い点は、氷河堆積物とそれを覆うキャップカーボネートがともに赤道近くで形成されたこと、これらの地層に地球磁場の逆転によるものと考えられる極性反転サイクルが刻まれていたことである。こうした地球磁場極性反転は数十万年スケールで起こるものであり、キャップカーボネートの堆積速度が、ホフマンとシュラグが主張する古典的全球凍結仮説とは整合的でないことは、今後の重要な論点となるだろう。

 さらに、この氷河堆積物には氷期と間氷期の繰り返しを示唆するような堆積相の変化がみられ、氷河が赤道域にまで達したとしても古典的全球凍結仮説のようではなく、赤道域の一部は凍結をまぬがれ、氷床の成長と交代が繰り返したことを示唆している。これも古典的全球凍結仮説と矛盾するものであるが、こうした地質学的証拠が何を物語っているのかを突き詰めることで、仮説の修正、あるいはおおきな見直しの必要性が生じるかもしれない。

[1] Kilner, B. et al. (2005) Low-latitude glaciation in the Neoproterozoic of Oman. Geology, 33, 413-416.