岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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マーク・アドラー博士講演会
「火星探査車が発見したもの」報告
2005年7月23日


講演会の様子  2005年7月23日午後2時から4時まで、表記講演会が名古屋市栄の三の丸庁舎(愛知国際プラザ)の8階大会議室で開催された。この講演会は、愛知万博におけるアメリカ館出展記念として企画されたもので、名古屋アメリカンセンター、愛知万博アメリカ館、愛知県国際交流協会が主催した。筆者は、この講演会での司会を仰せつかり、大勢の参加者の質問を整理して、アドラー博士へ質問させていただいた。

 アドラー博士は、火星探査計画の柱が火星の水の探査であることを地球環境と火星環境を比較しながら説明した。水は生命の発生、生命の維持にとって不可欠な物質であり、火星探査車による探査も火星に水が存在した物的証拠集めをねらって着陸地点や調査内容が絞り込まれた。

探査車を説明する博士  アドラー博士は、探査におけるテクニカルチームのリーダーとして、探査車の開発から火星への投入方法にいたるまで、この計画全体における技術的責任者の一人である。この講演でも、探査車の開発、探査車の走行試験、火星への投入実験などの様子がビデオ映像で紹介された。とりわけ興味深かったのは、昆虫が脱皮して羽化するように、エアバックにくるまれて着地した探査車がソーラーパネルを開いて、徐々に起動していくように設計されていること、昆虫のように2つの広角カメラでステレオ撮影して進行方向の地形や障害物を認識し、科学的に興味のある岩石にはグラインダーを伸ばして岩石内部のようすをマイクロスコープで観察するなどの仕組みであった。

 こうしたシステムをデザインし、火星環境を想定して実験し、計画を成功へ導くという実行力は、すごいとしか表現できないものである。約1時間の講演のあと、参加者からの質問をとりあげ、さらにつっこんだ探査計画の紹介がなされた。

 「火星探査車と情報をやり取りしているときに、どのようなことを考えましたか」という質問には、「とにかく忙しかった」と答えた。苦労した点については、「火星の1日は約24時間であるが、地球の1日の長さとぴったり一致していないため、地上での日常生活と探査車の火星での日常生活が次第にずれて、不便なことがあった」と述べ、実際にこの探査に四六時中関わっている人間しか実感できない苦労話が披露された。

 また、この探査で困ったことはなにかという質問には、「Many!」と答え、それらがどのようなものかを語っていった。探査車が砂漠に突っ込んで、車輪が空回りして動けなくなったことは熱っぽく語ったが、地球でも砂漠でスタックすることがあったことを思い出し、探査車による火星探査が地球の地質調査に一歩ずつ近づいていっているような印象を受けた。

 探査車の設計から開発、実用化までは3年ということで、新車の開発と同じくらいの期間で開発が行われていることも驚かされた。今後いくつか探査が計画されており、今後の展開が楽しみだ。

火星について語る博士  最後に、アドラー博士は大学で数学を学び、大学院では電子技術、博士論文は物理、パイロットやスキューバダイビングまで趣味としており、子どものころ、学生のころはどのようだったかを伺った。また、小学生や大学生など学生も多数参加していたため、学生たちへのメッセージとして一言述べていただいた。「なんにでも興味をもつこと、疑問をいだき、ときには懐疑的に考えて、物事を見極めること。そして、なんでもやればできるって考えることが大切だ。」短い言葉のなかに、数々の難題をクリアして火星探査を成功させたテクニカル部門のリーダーとしての資質を垣間見ることができた。