岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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冥王星を惑星から除外することについて
2006年9月12日

 2006年8月にチェコのプラハで開催されていた国際天文学連合の総会で、1930年以来第9惑星とされていた冥王星を惑星のなかまから除外することが決定された。

 冥王星は1930年にアメリカのトンボーによって発見された。冥王星は天王星や海王星と同じく、内側をまわる惑星の軌道の乱れから存在が予測されていたもので、アリゾナのロウエル天文台での長年の探査の末ようやく発見されたものだ。発見当時は冥王星の大きさや質量については推定されなかったが、発見の経緯から第9惑星と位置づけられたようだ。

 1978年になって、冥王星に衛星があることが天体望遠鏡で撮影されたいびつな画像からあきらかになった。この衛星はカロンと名づけられ、冥王星の質量の40%に達する質量をもつことが示された。

 1980年代になると、冥王星のまわりをまわるカロンの軌道面上に地球が位置するようになり、冥王星とカロンが繰り返し重なるような運動(食という)が観測された。こうした観測によって、大きさ、公転周期が精密にはじきだされ、冥王星の半径は1150km、カロンの半径は625kmとなった。これは惑星にしてみればかなり小さい値であった。また冥王星の比重は約2.0で、海王星の衛星トリトンと内部構造が似ていることが示された。

 一方、冥王星のスペクトル観測からは、凍ったメタン、窒素、一酸化炭素などが確認され、冥王星の表面がトリトンと同様に氷でできていることが裏づけられた。トリトンについては1989年のボイジャー2号の探査で表面の様子が撮影され、メロンのような姿が印象的で世界の人々を驚かせた。

 さて、海王星の衛星トリトンは逆行運動しており、冥王星については海王星と交叉する軌道をもっていることなどから、トリトンの形成が冥王星-カロン系の形成と関連しているという仮説が提示されたことがある。最近では、ハッブル宇宙望遠鏡による観測などによって、冥王星-カロン系のような連星型小型惑星(binary minor planets)が外部太陽系で相次いで発見されるようになり、冥王星-カロン系もそうした天体のひとつとみなされるようになった。

 そうした天体には、1998WW31、2001CQ114など60個以上発見されている。ちなみに連星型小型惑星は、冥王星-カロン系のような海王星の軌道と交叉するタイプ(海王星軌道交叉型連惑星:trans-Neptunian objects(TNO)、カイパーベルト天体ともいう)に属するものと、主に火星と木星の間にある小惑星帯に分布する連星型小惑星(binary asteroids)に属するものに大別されている。なお、今回新たな惑星の候補とされた2003UB313は、海王星軌道交叉小型天体(カイパーベルト天体)に属するもので、連星型小型惑星ではないものの大きさが冥王星より大きいことで注目を集めた。

 こうした発見を受けて、海王星の衛星トリトンもそうした連星型小型惑星が海王星と遭遇し、ひとつが弾き飛ばされ、もうひとつが海王星重力圏に捕獲されたというシミュレーション結果が最近論文と発表された。この新説は、木星型惑星の不規則衛星の新しい起源論として注目されている。

 もし、外部太陽系に冥王星-カロン系のような天体がまだまだ未発見のまま残されているとすれば、冥王星だけ惑星に位置づけるには違和感がつきまとう。冥王星を惑星に位置づけるとすれば、定義を明確にしてそれ以外の天体も惑星のなかまに加えたらどうか。あるいは冥王星だけ別格にするのではなく、惑星のなかまから除外したらどうか。

 冥王星については発見のエピソードや従来の位置づけを踏襲し、いままでどおり惑星のままにしておくという意見もあるだろう。そうしたさまざまな見解のなかで、冥王星を惑星に含める科学的根拠が乏しくなっていることを受けて、冥王星を惑星から除外するという選択になったといえるだろう。