岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
理科教材データベース
小惑星4ベスタの表面に
石鉄いん石メソシデライトが存在する可能性
2006年10月6日

 宇宙からやってきた固体物質はいん石と呼ばれている。いん石には、岩石質の石質いん石、鉄ニッケル合金からなる鉄隕石と、それらが混合した石鉄いん石というものがある。石鉄いん石には、岩石成分と金属成分がいん石母天体表面付近で混ざってできたと考えられるメソシデライトと、いん石母天体の金属核と岩石質マントルの境界付近でできたと考えられるパラサイトという2つのグループに大別されている。

 最近、R. C. Greenwoodら英仏の惑星化学者たちは、石鉄いん石の酸素同位体比を分析して、石鉄いん石のメソシデライトとパラサイトの間で、酸素同位体比が異なっていることを明らかにした[1]。このことは、これらのいん石が異なる母天体からやってきたものであることを意味している。メソシデライトは、ホワルダイト、ユークライト、ダイオジェナイトという名前がつけられている玄武岩組成をもつ分化したいん石群と同じ酸素同位体比をもっており、それらがいずれも小惑星4ベスタ(Vesta)からやってきた可能性が高まったといえる。

 希に地表に落下するいん石は宇宙物質としてたいへん貴重なものである。いん石がいつどのように作られたのか、また太陽系のどの天体からやってきたのかを探ることは、太陽系の起源や進化を解明する重要な手がかりを提供する。いわば太陽系の歴史を探るロゼッタストーンというわけだ。

 これまでに膨大な数のいん石が発見されており、その成分がどのようなものか、どのような鉱物でできているのか、岩石組織から形成過程や熱変成、衝撃変成の程度が研究されてきた。こうした研究に基づいて、いん石は多くのグループに分類され、分類群ごとに故郷であった天体(母天体)が推理され、火星と木星のあいだを公転する小惑星のなかに母天体として有力なものがないか調べられてきた(図1)。

図1.いん石の分類。( Sears and Dodd [2]に基づく )

 岩石質のいん石には、これまで一度も融解したことのない始源的いん石と、母天体の内部でマグマが形成され、それが冷え固まってできた分化したいん石がある。未分化ないん石にはコンドリュールと呼ばれる球粒状の物質が含まれることからコンドライト、分化した隕石にはそうした始源的組織が失われていることからエコンドライトと名づけられた。分化したいん石は玄武岩質であることから玄武岩質いん石(basaltic achondorite)と呼ばれることもある。

 一方、鉄隕石や金属鉄と岩石成分が混ざった石鉄いん石は、母天体内部が融解して比重の大きな金属鉄が中心核になったものが、その後激しい天体衝突で飛び散った残骸であるとみなされてきた。こうした考えでは、岩石質の成分は母天体のマントルで固化して玄武岩質いん石となり、パラサイトのような石鉄いん石は金属核と岩石質マントルの境界付近からやってきたというわけだ。

 さて、さまざまないん石や月や地球の岩石についての酸素同位体比の測定データは、惑星やいん石が形成された原始太陽系星雲は酸素同位体比でみると不均質であり、異なる場所でできた天体の酸素同位体比は、違った値をとることが知られていた。従来の酸素同位体比をもとに地球惑星物質を分類すると、(1)地球と月、(2)火星起源とされるSNCいん石、(3)炭素質いん石、(4)玄武岩質いん石(ダイオジェナイト、ホワルダイト、ユークライト)、メソシデライト、パラッサイト、鉄隕石)に大別された。

 いん石母天体内部で分化があったことを示す(4)のグループについては、同様の酸素同位体比をもつことから共通の母天体から由来したと考えられ、玄武岩質いん石の反射スペクトルと小惑星4ベスタのスペクトルの類似性から、ベスタが母天体の候補ではないかといわれてきた。こうした見解における問題点は、ベスタは大きな小惑星であり、天体衝突によって中心部まで破壊されてパラサイトいん石が飛び散ったとは考えにくいと指摘されていた。

 今回のGreenwoodらの分析では、最新の分析技術をもちいて測定が行われたため、メソシデライトとパラサイトで、酸素同位体比に明瞭な差があることが明らかになった。しかも、いん石母天体表層からやってきたとされる玄武岩質いん石とメソシデライトが同じ酸素同位体比をもっていることは、これらが共通の祖先からやってきたものであり、中心核と岩石質マントルの境界でできたパラサイトは別天体起源であることを決定的にしたことは画期的な研究成果であるといえる。

 反射スペクトルのデータが示唆するように、玄武岩質いん石の故郷が小惑星4ベスタであるとすれば、ベスタの表面にはメソシデライトのような岩石と金属鉄が混合した物質が露出しているに違いない。NASAは今後小惑星4ベスタの探査を計画しており、メソシデライトが発見されるかどうかは、大きなトピックスの一つになるだろう。

[1]Greenwood, R. C. et al.: Oxygen isotope variation in stony-iron meteorites. Science, 313, 1763-1765, 2006.
[2]Sears, D.W.G., and R. T. Dodd: 1.1. Overview and classification of meteorites. In Meteorites and the Early Solar System, ed. By J. F. Keridge, M. S. Matthews, pp.3-31, Univ. Arizona Press, 1988.