岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
理科教材データベース
5000万年前の大気中の二酸化炭素濃度は
現在の3倍もあった
2006年10月17日

北緯80度のカナダ北極圏のエルズミア島やアクセルハイベルグ島は、荒涼とした大地と氷河だけの世界であり、まさに地の果てのような景観だ。だが、むき出しの地層を調べていくと、表面に巨大な樹木の根株が林立しているところがある。その森林は5500万年前ごろのもので、メタセコイアなどの落葉高木の針葉樹が大森林をつくっていたのだ。それは現在の地表の姿からは想像もつかない、豊かな森林が北極に近い地域にまで繁殖していたことのまぎれもない証拠であり、かつて地球の気候は現在とはくらべものにならないほど温暖だったことを物語っている。

大気中の二酸化炭素濃度が高まったことが、当時の温暖化の直接的原因だといわれている。これまで、土壌中で成長した炭酸塩鉱物、植物化石の葉の気孔の密度などから、当時の二酸化炭素濃度を見積もろうという研究が行われてきた。こうした物証から大気中の二酸化炭素濃度を推定する作業には、不確定な因子や誤差があり、その値は100ppmvから3500ppmv(ppmvは体積百万分率)まで、大きなばらつきがあった。

ニューヨーク州立大学の二人の地質学者は、湖沼で形成されたナトリウム炭酸塩鉱物の鉱物種とその形成条件を表した相図(図1)を比較して、当時の二酸化炭素濃度が1125ppmv以上だったことを示している[1]。

湖沼のような大気中の二酸化炭素濃度が鉱物形成に影響を与える環境で形成されるナトリウム炭酸塩鉱物には、重曹石(トロナ:NaHCO3・Na2CO3・2H2O)、ソーダ石(ナトロン:Na2CO3・10H2O)、ナオコライト(NaHCO3)がある。現在の地球では、温暖な地域では重曹石、寒冷な地域ではソーダ石が形成されている湖沼が知られている。ナオコライトは、高い二酸化炭素濃度下で安定なため、現在の地球では形成されている湖沼は知られていない。

ニューヨーク州立大学の地質学者たちは、5000万年前に湖沼的環境で堆積した地層として北米のグリーン・リバー層群を対象にし、含まれるナトリウム炭酸塩鉱物の種類を調べた。そしてウイルキンス・ピーク部層と名づけられた厚さ300メートルの地層中に含まれるナトリウム炭酸塩鉱物がナホコライトであることを明らかにした。

仮に、地表温度が現在と大きく違わなかったとすると、ナホコライトの形成されるための二酸化炭素濃度は相図から、1125ppmv以上であると見積もられる。ナホコライトの存在は、当時の二酸化炭素濃度が現在の3倍近い値で、産業革命以前の280ppmvという値に比べると4倍もあったことを物語る。

化石燃料の消費によって、大気中の二酸化炭素濃度は上昇を続けている。その値はどこまで上昇するのか、そして地球の気候はどうなるのか・・・


[1] Lowenstein, T. K., and R. V. Demicco: Elevated Eocene atmospheric CO2 and its subsequent decline. Science, 313, 1928.