岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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氷河性地震
地球温暖化で加速するグリーンランド氷床の崩壊
2006年12月25日
 人間活動によって大気中に蓄積される温室効果ガスによって、地球温暖化が進むと予測され、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出規制への動きが始まっている。しかし、二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度は今も上昇を続けており、地球の平均気温の統計データにも温暖化傾向がみられるようになっている。

 こうした温暖化が続くと、グリーンランドや南極などの氷床が融解し、海水面が上昇することになる。2003年にハーバード大学の地震学者たちが発見された氷河性地震は、氷河のダイナミクスにおける異変を示しており、地球温暖化による海水面の上昇が予測より早まるのではないかと危惧される。


図1:月毎の氷河性地震の頻度
(1993年〜2005年までの合計値)
 氷河性地震というのは、斜面をゆっくり流れる氷河が急激に滑って発生する地震であり、地すべりによって発生する地震と類似している。氷河の急激なすべり現象では、周期の長い波だけが発生するため、通常の地震波の解析では検出できない。G.エクステルムらハーバード大学の地震学者たちは、長周期の地震波を解析する新たな方法を考案し、1993年以降の世界各地の広帯域地震計の記録を解析を試みた。2003年の解析[1]では、グリーンランドやアラスカなどの氷河の下で発生した46個の地震が新たに確認され、氷河性地震として注目された。典型的な氷河性地震のマグニチュードからすると、長さ1km、幅1km、厚さ1kmの氷河が1分ぐらいの間に10m滑ったことになる。


図2:年毎の氷河性地震の頻度
 彼らは、こうした解析を2005年までのデータについて行った[2]。その結果、グリーンランドで発生した氷河性地震は182個に増えた。これらの地震は6月から9月の夏季に多く発生しており、21世紀にはいってから急激な増加傾向を示している。また、発生場所も高緯度側へと拡大傾向を示している。

 氷河は大陸斜面をゆっくりと流れ下り、末端部で融解や蒸発によって消耗されると考えられてきた。しかし、温暖化が進むなかで氷河の底を流れる地下水が土砂と混ざって潤滑剤となり氷河を急激にスリップさせて、氷河の急激な流れ出しが発生すれば、氷河や氷床の縮小は大幅に加速するに違いない。こうした氷河の流動における異変は、氷床の縮小の加速化を促すのではないかというわけだ。

 氷河性地震の発生頻度は今後も高まっていくのだろうか。氷河性地震の発生をモニターしていくことは、地球温暖化に対する氷床の応答がどのように進行しているかを把握するうえで、貴重な情報を提供するものと期待される。

[1] Ekstrom, G. et al. (2003) Science, 302, 602.
{2} Ekstrom, G. et al. (2006) Science, 311, 1756.