岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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内核の超回転:震源決定誤差の評価による裏づけ
2007年2月11日
 地球の固体部分は23時間56分で自転しているが、中心部にある固体内核はこれよりもわずかに速い速度で回転しているという研究論文が1996年に発表され話題となった[1]。南米のサウスサンドイッチ諸島で発生した地震の波動がマントル、外核、内核、外核、さらにマントルを通過して観測点のあるアラスカに到達する。この経路を通過する地震波の到達時間を調べると、過去30年で0.3秒早まっているという地震学的な研究によるものだ。

 地球内核は方位によって地震波の伝わり方に違いがあり、南北方向を走る地震波速度は赤道面内を走る地震波よりも速いことが知られている。こうした性質を異方性というが、異方性の対称軸が地軸と一致しておらず、内核の回転速度が地球の自転速度とずれているとすると、数百年オーダーで地震波速度構造が周期的に変化することになる。サウスサンドイッチ諸島の地震に対するアラスカでの観測記録は、こうした長期的な地震波速度構造の変化にともなって地震波の到達時間にわずかなずれが生じているというわけだ。

 この研究発表は大きな論争となり、相次いで結果の追試が行われた。その結果、内核の回転速度と地球の自転速度のずれは当初の推定より小さいという結果、用いた地震の震源決定の誤差によるという批判があり、さらなる検証の必要性が生じていた。

 この問題に対し、イリノイ大学の研究グループ[2][は、サウスサンドイッチ諸島で発生した地震のアラスカでの地震記録だけでなく、反対方向へ伝播してオーストラリアへ到達した地震記録を用いて、震源決定の誤差が結果に影響しているかどうかを検討している。もし、震源決定の誤差が影響しているとすれば、アラスカでの到達時間の遅れに見合う時間だけ、オーストラリアでは早く到達しているはずである。彼らの得た結果によると、震源誤差の大きさは平均3.6kmで、問題になっている走時のずれの10%程度にしかならなかった。こうした結果から、サウスサンドイッチ諸島の地震のアラスカにおける走時の経年変化は、内核の超回転によるという解釈が最も合理的であるとイリノイ大学の地震学者たちは考えている。

 一方、サウスサンドイッチ諸島の地震のアラスカにおける観測波形を比較した最近の研究では、走時の時間変化率は、0.0090秒/年であり、当初の推定値に近い値が得られている[3]。内核の超回転の妥当性を巡ってさまざまな論争が喚起されたが、最近発表された論文には内核の超回転を支持するものが相次いでいる。

[1] Song, X. D., and R. G. Richards (1996) Nature, 382, 221-224.
[2] Sun, X. et al. (2006) J. Geophys. Res., 111, B11305.
[3] Zhang, J. et. al. (2005) Science, 309, 1357-1360.