岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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地球:プレートテクトニクスの始まりは38億年前から
2007年4月24日
 太陽系の惑星のなかでプレートテクトニクスが作用している惑星は地球だけである。地球ではいつからプレートテクトニクスが作用するようになったのか?これは地球科学者だけでなく、火星や金星のテクトニクスを研究する惑星科学者がいだく地球惑星科学の大きな問題である。最近、ノルウェー、南アフリカ、ドイツなどの地質学者のグループは、西グリーンランドのイスア地域で、プレート運動が38億年前までさかのぼることを示唆する証拠を発見した[1]。

 地球の表面は、太平洋プレート、北米プレートなど、大小10数枚〜数10枚の剛体的なプレートに分けられ、プレートの相対運動で地殻変動や造山運動が起こっている。プレート境界は、中央海嶺のような発散型境界、造山山脈や島弧のような収束境界(沈み込み帯)、およびプレートどうした横ずれ断層(トランスフォーム断層)でこすれあう横ずれ境界の3つに分けられる。地震や火山活動は、こうしたプレート境界に集中している。

 これまで、地質時代にプレート運動が存在した証拠として、安定大陸直下のスラブの沈み込みを示唆する地殻構造、プレートの沈み込みによると考えられる高圧変成岩、オフィオライトという海洋プレートの成層構造を備えた岩体などが注目されてきた。オフィオライトは、上部マントルのかんらん岩、海洋地殻下部のシート状岩脈の貫入を受けた斑レイ岩、海洋地殻上部の枕状溶岩、チャートなどの海底堆積物から構成されており、中央海嶺で形成された海洋プレートが沈み込み帯で上盤側のプレートに乗り上げて地表に露出したものであるとみなされてきた。こうした研究からはプレートテクトニクスは20-27億年前までさかのぼるという。

 今回、ノルウェーの地質学者たちは、38億年前に形成されたイスア地域の西部を地質調査し、かんらん岩、シート状岩脈群、マグマが海底で噴出したことを示す枕状溶岩を発見した。シート状岩脈は平行に多数貫入しており、伸張性のテクとニックな環境で継続的にマグマが供給されたことを物語っている。彼らは、こうした構造が今日の中央海嶺のような場所で形成されたものであると論じている。

 さらに、かんらん岩やシート状岩脈にともなって、garbenschieferと呼ばれていた火山岩類の微量元素分析を行ったところ、この岩石の化学的性質が海洋性島弧で特徴的なボニナイトと同様であることが明らかにされた。ボニナイトは小笠原諸島の火山岩で最初に発見され、ボニナイトという用語も小笠原諸島の「無人」に由来し、日本語では無人岩と呼ばれていたこともある。マグネシウムに富む斜方輝石とかんらん石の斑晶をもつガラス質の安山岩である。小笠原諸島のボニナイトは、背弧海盆の拡大にともなって活動したもので、こうしたマグマの生成は沈み込み帯での島弧形成と密接に関わっていると考えられている。小笠原諸島父島では、海底でのボニナイトの噴火によって島が形成され、その後地殻変動で島が隆起したため海岸で枕状構造を示す巨大なボニナイトの露頭を観察することができる(図1)。


  イスア地域の火山岩にボニナイトが産出することは何を意味するのか。今日のプレートテクトニクスの枠組みにおける岩石成因論が初期地球にも適用できるとすれば、38億年前に中央海嶺と海洋性島弧が存在していたことになり、今日のようなプレートテクトニクスは38億年前までさかのぼることになる。こうした示唆は地球史的にたいへん重要なものであるだけに、この発見を契機に、イスア地域の地質構造や岩石学的研究、さらにボニナイトの岩石成因論にまで踏み込んで活発な議論が始まるに違いない。

[1] Furnes, H. et al. (2007) Science, 315, 1704.


図1:小笠原諸島父島のボニナイトの枕状溶岩