岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
理科教材データベース

地球最古のジルコン結晶に含まれていたダイヤモンド
2007年9月7日
西オーストラリアのイルガーン・クラトンのジャックヒル地域に露出する変成を受けた堆積岩にはジルコン(ZrSiO4)という微小な鉱物粒子が含まれており、SHRIMPという分析装置を用いたPb-Pb年代測定で、地球最古の44億年という形成年代が得られている。最近、この地域のジルコン結晶中の包有物としてダイヤモンドが含まれていることを、ドイツとオーストラリアの研究グループが発見した[1]。この発見は、初期地球の表層環境に関する新たな論議を喚起しそうである。

 地球は45億年前に原始太陽形成雲のなかで微惑星が集積して形成された。初期地球は微惑星の衝突で発生する熱で高温になり、集積の最盛期には地表にマグマオーシャンが形成されたと考えられている。微惑星の衝突頻度が低下すると、地表はマグマが冷えてできたが岩石で覆われ、大気の温度も冷えて雨が降り、海洋が形成されていった。しかし、初期地球ではマントル対流が活発で形成された地殻はマントルへリサイクルして失われたり、引き続く天体衝突で破壊されたりしたため、最古の地層が残されるようになったのは40億年前ごろになってからであった。地球の形成から最古の地層が残る40億年前までは、冥王代と呼ばれているが、地球の歴史における先地質時代と言うこともできる。こうしたなかで、40-44億年といった年代値を示すジャックヒルのジルコンは、微小粒子ながら、初期地球の表層環境を探る重要な手がかりとみなされ、世界的に注目されたのだった。

その後の研究によると、ジルコンという結晶は、火成岩や変成岩中にみられるが、ジャックヒル地域のジルコンは花崗岩起源であり、その酸素同位体比の分析からマグマが水と反応したことが読み取れた。すなわち、44億年前には地表はかなり冷えた状態にあり、地殻では花崗岩質マグマが形成され、地表には海が存在したというわけである。こうした考えはかつての初期地球高温説を覆す低温説とみなされ、初期地球に対する新しい知見として注目されたのだった。

ところが、今回ジャックヒル地域のジルコン結晶について、20個に1個の割合でダイヤモンドの微小結晶が含まれていることが発見された。しかもそのPb-Pb年代は30-43億年という年代の範囲にばらついている。地球惑星物質中におけるダイヤモンドは、隕石、天体衝突構造、キンバーライトのような塩基性火山岩類中の捕獲岩、超高圧変成岩などから発見されている。ジャックヒルで発見されたジルコン粒子中のダイヤモンドは、鉱物学的性質やラマンスペクトルの特徴から超高圧変成岩中のものと類似していた。ダイヤモンドの周辺にはグラファイト(石墨)も存在しており、超高圧状態から低圧状態へ移行する際に、一部結晶構造が変化したことも示唆された。

もし、ダイヤモンドが超高圧下で形成されたものであるとすると、ジルコンを含む初期物質は地球深部まで運ばれたことになり、ジルコン結晶も高温高圧状態で生成された可能性がでてくる。しかし、ジルコン粒子中のほかの包有物からはこの鉱物が超高圧状態におかれたことを示唆する物証はみつかっていない。ダイヤモンドを発見した研究グループは、地表付近の地殻におけるマグマの結晶化の際に生成したジルコンが地下深部まで運ばれた可能性を示唆している。

はたして40億年前より古い時代に生成したジルコンは初期地球の表層環境について何を物語っているのか。ジャックヒル地域のジルコン結晶中のダイヤモンド発見は、地球最古の鉱物粒子の研究にさらなる拍車をかけるものである。


[1] Menneken M. et al. (2007) Headean diamonds in zircon from Jack Hills, Western Australia. Nature, 448, 917-920.