岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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珪素同位体比:地球外核に珪素が存在する動かぬ証拠
2007年9月11日
 地球の中心部には鉄ニッケル合金からなる中心核が存在する。中心核は固体状態の内核と液体状態の外核からなる。外核の地震波速度や密度に関する研究から、外核には10%程度質量数の小さい元素が溶けこんでいることが知られており、それが珪素なのか、硫黄なのか、酸素なのかを巡って、長い間論争が続いてきた。最近、オックスフォード大学のGeorgらは、地球、月、隕石に含まれる珪素同位体比を精度よく測定し、地球外核に珪素が存在することを示唆するたいへん重要な結果を導いた[1]。

 地球外核に珪素が含まれるという説は、地球の珪酸塩部分(マントル)のMg/Si比が高いことなどを根拠にオーストラリアの地球物理学者のA.E. Ringwoodが1960年代に発表した。しかし、この考えは、金属質の還元的な核と珪酸塩からなる酸化的マントルの境界が化学的に非平衡であることになるという欠点があり、Ringwoodは1970年代に外核の軽元素が酸素であるという別の説を提案した。このほかに硫黄説、水素説、カリウム説などもあって、約半世紀にもわたってホットな議論が続いていた。

 Georgらは、MC-ICPMSという分析装置で、珪素同位体比を精密に分析する手法を開発し、地球や月の岩石だけでなく、多数の隕石について測定データを提示した。得られたデータをみると、隕石のδ30Si=-0.58±0.06‰、δ29Si=-0.30±0.03‰に対し、地球物質はδ30Si=-0.38±0.06‰、月の岩石はδ30Si=-0.31±0.03‰であり、地球と月の岩石だけ大きくずれた値を示した。

 珪素同位体分別を引き起こすメカニズムのなかで、地球形成期の鉄ニッケル合金と珪酸塩の分別が有力候補である。珪素は酸素と結びつきやすく、珪素の珪酸塩と金属鉄の間の分配で、質量数の大きい珪素が珪酸塩中に濃集する傾向がある。Georgらは、第一原理シミュレーションを行って分配係数を見積もり、金属鉄中に珪素が溶け込む割合が高くなると、珪酸塩成分における珪素同位体比が正の値へとシフトしていくことを理論的に計算した。

 こうした計算によると、隕石と地球物質における珪素同位体比の違いを生じるには、中心核に珪素が5%程度溶けこめばよいと推定された。これは、地球外核には酸素、硫黄、珪素のいずれもが含まれており、珪素の寄与が5%程度であるとする最近の推定値と符合している。


 これまで、外核の軽元素が何であるかは、地球惑星物質の化学組成に関する宇宙化学的検討や、高温高圧下における金属鉄への珪素や硫黄、酸素などの溶解度を実験的に調べる研究に基づいて議論されてきた。こうした間接的なアプローチではなく、地球惑星物質の化学的性質から直接導かれた説得力のある証拠として、大変重要な意味をもっている。


[1] Georg R. B. et al. (2007) Silicon in the Earth’s core. Nature, 447, 1102-1106.