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書評


泡のサイエンス、
シドニー・パーコウィッツ(はやしばじめ・はやしまさる訳) 紀伊国屋書店(2001)

 泡でまず連想するものといったらシャボン玉。ストローで吹いて七色に輝く大きな玉を作って風に飛ばして遊んだこどもの頃の記憶が蘇る。2つ重なったシャボン玉の美しい幾何学を不思議に思ったり、洗面器いっぱいにあふれるシャボン玉の山をつくって消えていく様子を眺めたり・・・そんな体験は誰にでもあるのではなかろうか。

 だがよく注意してみると泡は日常生活のなかだけでなく、自然界のさまざまな階層に存在している。本書は、身の回りの泡の博物誌をつづったものである。食べられる泡といえば、カプチーノコーヒーの泡、ビールの泡、コカコーラの泡、メレンゲ、パンなどさまざまな食べ物がある。生物のからだは細胞からできているが、もっともよく知られた泡状構造をした気管に肺がある。最近話題の狂牛病にかかったウシの脳もスポンジのように空洞ができていて、一種の泡状構造である。

 地球に眼を向けると、火山の軽石、海の波がくだけてできる泡などがあり、それらが地球環境に深く関わっている。宇宙の銀河の分布にも泡状構造があって、宇宙創成時の出来事を伝えている。

 また、応用科学の分野では、ビールの泡の研究や、断熱材、防音材としての発砲スチロールなどの材料科学の分野の研究があって、それらが捨てられて環境問題になったりしている。さらに彗星が軌道上にまき散らした塵を泡状構造をした捕獲器で地球に持ち帰る惑星探査の計画にまで話題がひろがっていく。

 本書は、そうした泡にまつわるエピソードを集めた楽しい読み物である。タイトルにサイエンスという言葉がついていて、本文でも表面張力や界面エネルギー、泡の重なりに関する幾何学法則や、泡状構造を研究する手法なども簡単に紹介している。だが、泡に関する意外なエピソードを語ることが著者の基本姿勢であって、軽石の泡やシャボン玉のダイナミクスに興味を抱いている筆者は楽しく通読することができた。
泡に興味を抱いている一般読者に推薦したい一冊である。