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書評


おしえて、アインシュタイン博士
アリス・カラプリス編(杉元賢治 訳)大月書店(2002)

 本書は、世界の子どもたちとアインシュタイン博士が交換した手紙を集めた本である。アインシュタインは、一般相対性理論で時間と空間の本質に迫った20世紀の偉大な物理学者である。理論物理学というと何となく堅苦しく難解な先入観にとらわれがちであるが、子どもたちと交わす手紙を読むと、ほのぼのとした雰囲気があってたいへん親近感がもてる。
 いくつか手紙文を紹介しよう。

アインシュタインさま

わたしは6さいのおんなのこです。
しんぶんであなたのしゃしんをみました。かみをきったほうがいいとおもいます。そのほうがきれいにみえます。
アン


これに対して、アインシュタイン博士はみだしなみについて次のような言葉を残している:

包み紙のほうが、その中に包んである肉よりよかったとしたら、悲しいじゃないかね。




親愛なるアインシュタイン博士

 おたんじょうび、おめでとうございます。この手紙をかいているわけは、あなたの仕事が、おもしろいからです。教室のけいじばんには、あなたのしゃしんがかかっています。わたしたちのクラスは、うちゅうについて勉強しています。うちゅうの勉強は、おもしろいです。わたしは、あなたがうまれたのが、うれしいです。というのは、もしうまれなかったら、こんなにたくさんのことを知ることができなかったからです。わたしは9さいです。

マルシア





 ひとつひとつの手紙を読むと、世界中の子どもたちがアインシュタイン博士にあこがれ、物理学や宇宙に興味をもつようになったことがわかる。

 アインシュタイン博士と手紙をやりとりした子どもたちの中から、たくさんの立派な物理学者や天文学者が生まれたにちがいない。

 ところで、斉藤孝氏は、「子どもに伝えたい、三つの力」(NHKブックス)の中で、教師というものは、子どもたちにとってのあこがれの対象になること、子どもたちのあこがれに寄り添うことが大事だと述べている。

 本書は、アインシュタイン博士が、20世紀の子どもたちのあこがれの対象だったことを子どもたちの手紙で紹介している。あこがれを忘れかけている現代人に対するアインシュタイン博士からのメッセージであると受けとめた。