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エッセイ


幻日と太陽柱

 2000年10月14日夕暮れどきのことである。西の空に金星がでているか見にいった大学院生の奥田君が「夕焼けが火山噴火のようですよ」と言いながら戻ってきた。初めは何のことかわからなかったが、教育学部の校舎の西へ出て、池田山の方をみると太陽はまさに沈んだところであり、空は夕焼けに染まっていた。その一番赤みを帯びたところに確かに赤い「柱」があった。それを奥田君は火山の噴煙柱だと思ったのだろうか。

 すぐに「太陽柱」(英語ではサン・ピラー)と思ったので、カメラを探そうとしたが、肝心なときにはすぐ見つからないものだ。「太陽柱」はわずか数分の間に淡くなり、やがて消えてしまった。

 同様の気象現象には、虹、暈(ハロー)、幻日などがある。いづれも太陽光と大気中の雨粒や氷の粒子が織りなす気象現象であるが、虹や暈は多くの方が見た経験はあるだろう。

 私は、今年7月、スイスのルツェルン湖の畔で初めて「幻日」を見た。午後8時を過ぎてすでに太陽は大きく西へ傾いていたが、本物の太陽の横20度ぐらいのところに、左右対称に明るい点があった。何か珍しい気象現象ではないかと思い、写真に撮った。帰国してまもなく、北海道大学の山中康裕氏が「天気」に東京と札幌を往復する飛行機から捉えた「幻日」や「太陽柱」の写真を紹介していたのを思い出した。そして、スイスで見た気象現象が「幻日」であることを知った。その記事を読んだときは、「幻日」のような現象は、上空を飛ぶ飛行機の上からならともかく、地上ではめったに見れない現象ではないかと思っていた。

 しかし、スイスでの体験によって、また見ることができるかもしれいないという期待が膨らんだ。そして、ときどき西に傾いた夕日を眺めるようにしていたのである。こんなにすぐに「太陽柱」をみることができるとは・・・
 これから秋も深まって「幻日」や「太陽柱」が現れやすい気象条件になる日が増えるだろう。カメラを常備して次の出現を待とうと思う。

 蛇足。火山の火口に溜まった真っ赤な溶岩が、火口から立ち上る水蒸気の噴煙を照らして赤く見えることがある。「火映現象」と呼ばれている現象だ。浅間山の活動が活発だった1970年代にはしばしば観察することができたことを思い出した。