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エッセイ


22世紀のグランドデザインへ向けて

第3世代の学問

 私が学生だったころ竹内均・東京大学名誉教授や島津康男・名古屋大学名誉教授らは、学問の発展段階には、3段階あると主張していた。第1世代は記載の段階。第2世代は記載に基づいて法則性を発見し、法則に基づいて事象を分析する段階。そして第3世代は、学問の総合化である。

地球科学の総合化

 私の専門の地球惑星科学もだいたいそういう方向に発展してきたといえる。地球環境問題が顕在化するなかで地球システム科学がクローズアップされ、学問分野の再編成の必要性が高まっている。そうした流れのなかで、細分化された地球科学の諸分野を横断するスタンスとして「縞々学」を始めた。
 さらに縞々学の発想で地球の全歴史性をまるごと理解する目標を掲げて、「全地球史解読」を開始した。そのコンセプトは、地球で起こったさまざまな出来事が岩石や地層の縞々に記録(record)されている。それを読み出すのであるから、英語ではDecoding Earth Evolution Program (DEEP)と名づけた。
 地球システム科学における位置づけとしては、物理的地球環境と生物進化の関連性に焦点を当てて「生命と地球の共進化」史観を提案した。
 現在、IT革命のなかで、学問の総合化がインターネットで繋がったマルチメディアを介して、新たな総合化が始まっているようにみえる。

なぜ地球の歴史を理解する必要があるのか

 この質問に対し、地球科学者は次のように答える。我々はどこにいるかを知りたくて宇宙を探査する。どこから来て、どこへ向かっているのかを考える視座を求めて、地球と生命の歴史を探り、その未来を考える。
 地球の歴史を振り返ると、実にさまざまな事件があった。白亜紀末(今から6400万年前)の天体衝突による恐竜の絶滅、約7億年前の地球表面全体が凍結する事件など、数えあげればきりがない。 その中で生命は発生してから40億年間環境変化をしのぎ、生き継いできた。しかし、種レベルで考えると、地球史で登場した生物種は例外なく絶滅しているのであり、新たな種が出現して、生き継いできたのである。

我々は、どこへ向かっているのだろう

 ホモ・サピエンスという種も地球史で登場した生物種の一つに過ぎない。種という単位で生物進化をみたとき、絶滅は不可避である。これは宇宙の摂理といってよいだろう。人類という生物もいつかは絶滅し、次の時代を担う生物種へ先をゆずる運命にある。
 これはずっと先であると信じたい。当面の未来へ視点を移したとき、次世代へ何を受け渡すのか。持続可能性という聞こえのいい標語がある。誰がいつまで何を持続させようというのだろうか。目先のことばかりが気になる現世を、地球史的な視点でみると愚かなことが結構あるものだ。だから少しばかり遠くを見据えて、いま自分たちの生き様を修正できないかと考えた。その中から「千年持続学」という言葉が生まれた。再生不可能な地下資源が枯渇してた千年先の地球においても持続する社会。それはどんな社会システムなのか。それを今デザインしようというわけだ。その糸口はいまあちこちに点在し、トータルなデザインとしてまとめ上げられるのを待っているに違いない。