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エッセイ


大流星雨がやってくる?

 一八三三年一一月一二日の夜のことである。突然、大小たくさんの流れ星が降り注いだ。その数は一分に数千を数えた。流れ星が壮大だったこと、人々が大騒ぎしたことで、この流星雨を見なかったのもはほとんどなかったといわれている。一九世紀初期には、彗星や流星に関する知見に乏しく、「最期の審判」の時が来たと思った人々も多かった。この流星雨の出現によって、流星の科学的研究の幕が明けた。その第一歩として、流れ星が獅子座の方角からやってきたことが明らかになったのだった。

 探検家のフンボルトが三四年前の一七九九年の同じ日に、南米で大流星雨を観察し記録を残していた。この二つの流星雨が関係あるとすると、約三三年周期で再び現れることになる。次の回帰がせまる一八六六年になって、フランスの天文学者のG. テンプルと米国のH.P.タトルがそれぞれ独立に新彗星を発見した。観測データからこの彗星の軌道を求めると、三三年ごとに太陽に接近する短周期彗星であることがわかった。この彗星(テンプル・タトル彗星)が獅子座流星雨と密接に関係していたのである。

 彗星は直径数キロメートルの雪玉状の天体だ。太陽に接近すると表面の氷が蒸発して、ガスが吹き出す。彗星核は汚れた雪玉と呼ばれるように、大小さまざまな固体粒子も含まれており、ガスの放出にともなってそれらも放出される。彗星が他の天体に比べて大きく、ぼんやり見えるのは、薄いガスや塵からなる雲(コマと呼ばれている)と長い尾をまとっているからである。

 流星雨は、彗星核から放出された塵の中を地球が通過する時に発生する。したがって、流星雨の発生時期は、塵を放出する彗星の軌道を精密に計算することで推定できる。しかし、彗星は木星や土星のそばを通過すると軌道が乱れてしまうし、彗星核から放出された微粒子は、太陽からの光の圧力を受けて、ケプラー運動からずれた運動をする。

 彗星の天体力学的研究の専門家であるD.K.ヨーマンス博士は、過去の流星雨の出現の記録に基づいて、テンペル・タトル彗星の軌道を検討している。その結果によると、九八年あるいは九九年の一一月一七日に流星の数が極大になる。だだし、過去の記録をみると、必ずしも予想された時に発生しているわけではないし、発生数も一時間に数十から数百程度しかないこともあることもありうるのである。つまり、今年も再び大流星雨が発生しないともかぎらないわけだ。