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エッセイ


子どもたちへのメッセージ

 本紙八月二日信濃毎日新聞の朝刊の「山麓ろく清談」で、漫画家の松本零士さんは、「未来がどんなものになるかという問いに答えを見つけたければ、子どもたちにきけばいい」と言い切った。「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」などの作品は、二一世紀をになう子どもたちへの氏からのメッセージに違いない。今夏は生家のある軽井沢で長期滞在し、子どもたちがいだく夢について考えてみた。

 たまたま書棚に「岩石」と題された小学校の卒業文集を見つけた。当時、私たち軽井沢西部小学校の6年生は、菊池春夫先生の指導のもとに、毎日授業を取りやめにして学校の中庭に浅間山を模した庭園を造ろうとしていた。そこへいろいろな岩石を配置して岩石園にしようというわけだ。いまではたいへんなつかしい小学校時代の思い出の一つである。

 さてその文集のページをめくると、一人ひとりの夢が書かれていた。当時、アポロ計画の最中であり、級友の多くが宇宙旅行や月旅行をテーマにしていた。こうして振り返ってみると、当時は、宇宙開発が将来の大きな、しかも生きている間に実現しそうな夢として、私を含めて子どもたちの心に深く刻まれていたのだった。

 では現代の子どもたちにとって、未来はどんなものになるのか。三0年前のような時代の潮流ともいうべき、大きな期待と希望に満ちた夢は残念ながら見あたらなくなっている。しかし、個々の学問分野や技術の世界では、まったくの空想としか考えら れなかったような変化が起こっている。ヒトの全遺伝情報を解読するヒトゲノム計画、インターネットで結ばれた高度情報化社会、ハイテクを駆使した地球観測システム。こうした分野の第一線の研究現場の熱気を子どもたちに伝え、将来の夢を育んでもらうことはできないものか。

 たまたま私は、今夏新潟県柏崎市の「ジュニア・サイエンス・アカデミー」に参加させていただいた。小学生たちに地球史の研究の話をするのは初めてだったので多少とまどったが、小惑星衝突による恐竜絶滅事件の話をしたり、実際にパチンコ玉を砂にぶつけてクレーターを作る実験をやってみた。また、お天気キャスターの森田正光さんとのトークも楽しく、子供たちからたくさんの質問がでて、あっという間に時は流れた。

 ちなみにこの企画は、今年が二回目で、昨年は「宇宙」、今年は「地球」、そして来年は「海」がテーマになっている。こうした地球や宇宙をテーマに、研究者との交流や科学実験を体験することで、科学への興味を引き出し、子どもたちに壮大な夢をいだいてもらう環境を提供することがねらいである。しかも地域住民、行政、そこに立地している企業などが連携して、イベントを盛り上げ活性化をねらっている。