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エッセイ


千年持続学の提唱

 最近の新聞記事で石油資源に関する記事が目についた。米国における原油価格の値上がりとアラビア石油の採掘権の期限ぎれである。石油埋蔵量の見積もりによると、あと五0年で石油資源は底をつくことになるという。これらの記事は石油依存型の現代文明が終焉に向かい始めることへの警鐘とも読める。

 今年一月に科学技術庁主催の第一九回科学技術フォーラムが開かれた。私は科学ジャーナリストの赤池学さんといっしょに、さまざまな分野の研究者を交えてこの問題を討論した。地球史を研究している私たちの目からみると、二0世紀型産業構造からのすみやかな脱却が必要であることはわかるが、具体的にどうすればいいか手探りの状態であった。一方、赤池さんらは、植物資源、昆虫資源など、これまで利用されてこなかった再生可能な資源を開発して実用化を目指したり、省資源、省エネルギー型の地域社会を構想し、実証実験を進めようとしていた。フォーラムの討論を通じて、こうした取り組みが、地球史的視点でみた二一世紀問題を解決することにつながることを認識することができた。

 二つの視点をいっしょにして、新しい社会を構想する取り組みができないか。参加者の一人東京大学の沖大幹さんの提案を受け、「千年持続学」というキーワードで参加者の思いが一つになった。長期的な展望にたってみたとき、再生不可能な資源を使い果たしても持続し続ける社会は千年先でも持続中であるはずだ。また、千年持続学には、現代の物質文明がいまどこにいて、どこへ向かおうとしているのかを明らかにする一方、突発的な気候変動を含め近い将来起こるかもしれないリスクに備えることも含めることになった。

 千年持続性という観点で新しい地域社会を構想し、実証実験ができれば、二一世紀型社会のモデルとして世界へ情報発信ができるだろう。科学技術フォーラムの討論を終えて、今私たちは何をすべきか、ようやく方向性がみえてきた。石油の供給不足を迎える前に、みんなで知恵を出し合って、新しい社会を作ろうではないか。