海洋酸素欠乏事件

トアルシア期(中生代ジュラ紀前期)のヨーロッパ。ズーム
トアルシア期(中生代ジュラ紀前期)のヨーロッパ。
は、有気炭素に富んだ頁岩が堆積した地域。
1: Mochras Farm borehole (イギリス),
2: Hawsker Bottoms (イギリス),
3: Bornholm (デンマーク),
4: Porto de Mós (ポルトガル),
5: Fuente de la Vidriera (スペイン).
Reprinted by permission from Nature Hennelbo et al. 2000 Figure 1 copyright 2000 Macmillan Publishers Ltd.
ヨーロッパでは、1億8300万年前のトアルシア期(中生代ジュラ紀前期)に、有機物に富んだ泥岩が海底に堆積した。有機物が堆積したのは、海洋底が酸素が乏しい環境になり、堆積物中の有機物が分解されなくなったからだと解釈できる。同様の事件は、中生代を通じて何回か起こっている。
この事件は、トアルシア期の海洋酸素欠乏事件(OAE; oceanic anoxic event)と呼ばれている。
OAEの原因として、海洋生物の1次生産が増大したという考えが提示された。泥岩中の有機物の炭素同位体比が前後の地層に比べて高い同位体比をもっていたことは、この説を支持した。
オックスフォード大学のHesselbo et al. (2000)は、イギリスのホースカー・ボトムズ(Hawsker Bottoms)とデンマークのボーンホルム(Bornholm)で、トアルシア階のOAEを記録した地層を調査した。彼らは、地層に含まれる陸上植物化石(つまり石炭)の炭素同位体比を測定して、炭素同位体比が減少したことを明らかにした。
Hesselboらによれば、その原因は、浅海域に蓄積されたメタン・ハイドレートが大量に融けだしたからだという。メタン・ハイドレートが溶ける要因としては、低圧と高温の2つが考えられる。しかし、この時期には海水準が上昇して水深が増えたので、圧力の低下は考えにくい。したがって、メタン・ハイドレートの不安定化は、深層海水の温度上昇が原因だと考えられている。
この事件で放出されたメタンの量は1.5×1018~2.7×1018gと見積もられる。メタン・ハイドレートは、古第三紀の温暖期(LPTM; Lower Paleocene Thermal Maxium)や、1億2000万年前のセリ・イベント(Selli event)でも、同様の大規模融解を起こしたと考えられている。
文献
Hennelbo, SP; Gröcke, DR; Jenkyns, HC; Bjerrum, CJ; Farrimond, P; Morgans Bell, HS; Green, OR. 2000. Massive dissociation of gas hydrate during a Jurrassic oceanic anoxic event. Nature, 406, 392–395. [the whole]