脊椎動物化石による被害評価

2億5100万年前に起こったペルム紀―三畳紀境界では海棲無脊椎動物の種の96%が絶滅するほど被害が甚大だったと見積もられている。この大量絶滅で陸上の動植物にも被害があったとされているが、その実態はまだ十分に調査されていはいない。
イギリスのBenton M. J.とロシアの共同研究者たちは、ウラル山脈の南部地域に分布するペルム紀から三畳紀の地層でみつかった両生類や爬虫類の化石675個体を用いて、化石がどの層準から産出が始まり、どの層準で出現しなくなるかを示すレンジ・チャートを作成し、この絶滅境界における脊椎動物の被害状況を解析した。
彼らは、対象とした地層を13のステージに区分し、個々の動物種の出現状況を調べた。ペルム紀には、絶滅する種と出現する種の割合が高いが、絶滅境界を越えると、魚を食べる小型動物や昆虫を食べる小型動物などが消滅し、生物多様性が減少し、その結果絶滅する種の割合も出現する種の割合も低下していることが示された。
こうした解析における問題点は、化石の産出数が小さい場合、得られた結果は化石の産出状況に大きく左右され、実際の生物多様性の変化を反映した結果が得られていない可能性がある。彼らは、いくつかの統計的検討を行って、三畳紀初期の絶滅や出現頻度が低下したことが有意であることを論じている。しかしながら、生物大量絶滅が起こった時期における絶滅頻度がペルム紀内における絶滅頻度より大きくなっていないことは、脊椎動物にみられる絶滅の被害は海棲無脊椎動物にみられるほど際立ったものではなく、やはり微化石のように標本数が豊富でないことが結果に大きな影響を与えているように思われる。
余談であるが、Benton et al. (2004)は、脊椎動物化石を産出する地層が、ペルム紀の海成炭酸岩や蒸発岩から三畳紀の淡水性の砂岩・泥岩へと移り変わることを記述している。こうした堆積環境の変化は、南アフリカやオーストラリアでも認められている。ロシアではウラル山脈の造山運動の影響も考えられるが、シベリアの洪水玄武岩の活動も影響していることが示唆されている。シベリアの洪水玄武岩の活動が生物大量絶滅の原因かどうかは今後の検証が必要であるが、この火成活動が地球システムにどのような影響を与えたのかも重要な研究課題であることは間違いない。

© 2005 Gifu University, Shin‐Ichi Kawakami, Bunji Tojo.