温泉を眺める少女マータ
熱湯の中で生物が生きる?
 
★どこからこんなに熱い湯が!
「ひさしぶりに、山へ行ってみようか」
山好きのお父さんが言い出して、マータたちは上高地に近い温泉場に来ていました。
宿の温泉からあがって、部屋へもどろうとしたマータは、ふと、途中の部屋の入口に張られた紙切れに気づいて、足をとめました。
『日本温泉バイオマット研究会様御席』――紙にはそう書かれています。
(温泉バイオマット研究会……、いったいなんだろう? 湯の花の研究でもするのかしら……)
そう思いながら、見つめていました。
「あら、おじょうさん、むかしの生き物に興味あるんですか?」
宿のおかみさんらしい人が、通りすがりに声をかけてきました。
「えっ? ……ええ、まあ……」
「だったら、イオウシバ*見ていくといいですよ。ここの温泉は、それで有名なんだから」
「イオウシバ……って!?」
「むずかしいことはわからないけど、なんでも、生命の祖先なんですって」
「生命の祖先……」
「とっても貴重なコケらしくて、学者の先生方が毎年この旅館で、研究会をなさるの」
「そこ、どこにあるんですか?」
「その廊下のつきあたりを右にまがって、外の石づたいに河原におりて……」
教えてもらったとおり、マータはがけのほうにおりていきました。
くずれた河原のがけのあたりには、白いものが張りついていて、上の岩間からふき出した温泉が、強いイオウのにおいとともに、白い湯気を出して流れています。
(この温泉、どこからふき出してるんだろう)
温泉のふき出し口を、のぞきこみましたが、見えるはずはありません。
そのとき、ふと、白いのりのようなものが、熱水の流れくだるところに、こびりつくようにたれ下がっているのが目に入りました。その横には深い緑色をした同じような形のものもあります。
(なんだかぬるぬるして、気持ち悪い)
と思いながらも、マータはさわろうとして、
「熱っ!」
あわてて手を引っこめました。熱水だってことを、すっかり忘れていたのです。

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