岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
理科教材データベース
太陽活動と気候変動
〜縞状湖成堆積物の周期解析から示唆された太陽活動と気候変動の関連性〜



 太陽活動が地球の気候変動の原因となっているのだろうか。この問題を解析するには、まず太陽活動にどのような変動があるのかを調べる必要がある。太陽活動にみられる変動で有名なのは約11年周期の太陽黒点変動である。太陽黒点の出現パターンに11年ごとのサイクルが認められ、それにともなって太陽光度も0.1%程度増減していることが知られている。太陽黒点変動は太陽磁場の変動と関連しており、太陽では11年ごとに磁場の極性が反転していることが知られている。さらに長い時間スケールでは、黒点変動の8倍の周期のグライスバーグ周期、203年周期のデ・ブリス周期といった周期性が存在することが示唆されている。ドイツのPrasadらは、中近東の死海に面したリサン湖の湖成堆積物の縞模様の解析を行って、2万6200年前から1万7700年前にかけての氷河時代に、太陽活動にみられる周期性に対応する周期性を検出し、太陽活動と地球の気候が関連している可能性を論じている[1]。

 彼らが解析に用いたリサン湖の堆積物には、砕屑粒子からなる層と炭酸塩鉱物からなる層が規則的に縞模様を形成している。この地域は夏季は乾燥気候でほとんど雨が降らず、冬季には地中海側からのサイクロンの到来で降雨がもたらされる。砕屑粒子の層は河川水によって運ばれたものであるが、冬季に雨が少ない年には湖の水位が低下するため、試料採集地点は岸に近くなり、その結果より多くの砕屑物質の供給がある。また、炭酸塩鉱物の層は乾燥した夏季に湖水中で析出したものであるが、その量は冬季に陸からもたらされる重炭酸イオン(HCO3-)の供給量を反映して、降水量の少ない年ほど薄くなる。冬季に雨が多い年はこの逆で、砕屑粒子層は薄く、炭酸塩鉱物の層は厚くなっている。

 Prasadらは、縞状堆積物の堆積年代を14C年代測定と縞の枚数の計測をもとに1年ごとに見積もり、20年および100年ごとに移動平均して厚さの変動曲線を求めている。得られた結果をグリーンランドの氷床掘削コアGIPS2の結果と比較して、変動パターンがよく対応していることを示している。

 彼らはさらに、変動曲線のスペクトル解析を行って、50-60年、90年、139年、192年、540年、1500年といった周期性を見いだしている。こうした周期的変動は太陽活動の周期性に認められれるもので、こうした数十年から数百年といった変動時間スケールで太陽活動と地球の気候変動に対応関係が存在することを論じている。

 数十年より長い時間スケールで太陽活動と気候変動に関連性が存在することは多くの研究によって示唆されているが、証拠となるデータはまだまだ乏しいのが現状である[2,3]。Prasadらのデータは、中近東における気候変動がグリーンランド氷床に記録された気候変動とよく対応していること、最終氷期にも数十年から1500年といった周期性が認められることを示しており、日本列島周辺で採集されている湖成堆積物でも同様の変動が認められるか検討してみる価値があるだろう。

[1] Prasad, S. et al. (2004) Evidence from Lake Lisan of solar influence on decadal- to centennial-scale climate variability during marine oxygen isotope stage 2. Geology, 32, 581-584.
[2] van Geel, B. et al. (1999) The role of solar forcing upon climate change. Quaternary Science Reviews, 18, 331-338.
[3] Beer, J., W. Mende, and R. Stellmacher (2000) The role of the sun in climate forcing. Quaternary Science Reviews, 19, 403-415.




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