岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)
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地球外核に珪素は存在するのか?
-新たな高温高圧実験の提示-
2005年2月15日

 地球外核に10%程度存在する軽い元素。それは地球ができてまもなく内部が融解して核とマントルに分かれたとき、金属鉄中に原子番号の小さい元素が大量に溶け込んだものであるとされている。その候補として、硫黄、珪素、酸素などが提案されてきた。鉄に珪素がどれくらい溶け込むかを高温高圧実験を行って調べたフランスの研究グループは、軽元素が珪素である可能性を退けた[1]。

 地球は成層構造をした惑星であり、中心から核、マントル、地殻からできている。核は金属鉄でできているとされているが、さらに詳しく調べると固体金属鉄を主成分とする内核と溶けた状態の外核に分けられることが知られている。外核が溶けた鉄でできていることは、この領域ではS波が伝わらないことから明らかにされたものである。

 核やマントル、地殻がどのような物質からできているのか。その有力な手がかりは、それらの層の密度や地震波速度を調べ、さまざまな物質の密度や地震波速度と比較してぴったり一致するものを探すことが考えられる。当然、地球の内部は高温、高圧状態にあるので、さまざまな物質を地球深部に持っていったときにどのような密度になり、地震波の伝わり方が地表と比べて、どれくらい変化したかを探る必要がある。こうした研究によって、溶けた外核は金属鉄に10%程度軽い元素が不純物として含まれていることが明らかにされた。

 では、その不純物は何か。これまでに、カリウム、珪素、硫黄、酸素、水素が有力候補であるとされてきた。外核中に10%も存在するということは、46億年前に地球を作った物質の主成分元素の一つでなければならない。これらはいずれも地球構成物質の主要成分であるが、地球を作った材料物質と比較すると地球ではカリウムや硫黄に乏しいことが知られており、それらの元素が外核に取り込まれたという考えが出された。

 一方、珪素については、金属鉄とけい酸塩鉱物が反応して、酸化鉄ができ、珪素が金属鉄と合金をつくったのではないかという説が出され注目された。ところが、外核を構成する鉄は金属状態であり、マントル中の鉄は酸化鉄であるとすると、核とマントルは化学的にまったく異なる状態にあることになってしまう。これは核とマントルがどのようにできたかという問題と直結しており、大きな謎とされた。この謎については、その後軽元素が酸素ではあるという説が提示され、実験的検証が試みられてきた。

 今回、実験結果を発表したフランスの研究グループは、マルチアンビル型高圧発生装置を用い、鉄珪素合金と珪酸塩鉱物を初期試料とし、25ギガパスカル、2200度Cで実験を行った。金属鉄中への珪素の溶解度は試料のおかれた酸素分圧によって大きく変化しており、Fe/FeOが共存する条件に対応する酸素分圧よりも4桁低い酸素分圧では、珪素は17%も溶け込むが、この条件より酸素分圧が2桁上昇すると珪素の溶解度は0.1%未満まで低下すると見積もられた。この結果は地球ができたころに金属鉄と珪酸塩鉱物が分離して核とマントルができたときには、ほとんど珪素は金属鉄に溶け込まなかったことを示唆している。フランス研究グループは、「地球外核に数%も珪素が存在するとしたら、地球材料物質の酸化還元状態は、かなり還元的なものを考えなければならない」と述べている。

文献

[1] Malavergne, V. et al. (2004) Si in the core? New high-pressure and high-temperature experimental data. Geochim. Cosmochim. Acta, 68, 4201-4211.



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