ミラーの実験
生命の起源は、長く〝自然発生説〟で説明されていたが、1861年のパストゥールの実験が自然発生説を否定した。それ以後、生命起源論は、科学者の関心を引くテーマになった。
アレニウスSvane August Arrhenius 1859–1927 スウェーデンの物理化学者は、“生命が宇宙から飛来した”というパンスペルミア説を唱え、オパーリンAleksandr Ivanovich Oparin 1894–1980 ロシアの生化学者は、“原始の海のスープの中で生命を作る材料が形成された”と主張した。しかし,これらの起源論はまだ、実験や観察に基づいたものではなかった。
生命起源論を科学的研究にまで高めたのが、1953年のユーレイとミラーの実験だ。彼らは、生命誕生を再現するため、原始大気を水素・メタン・アンモニア・一酸化炭素・二酸化炭素などでつくり、化学反応のエネルギー源として紫外線照射や放電を起こした。そして、実験でできた溶液の中に、生命に不可欠な有機物を多数確認した。彼らの後にも、多くの研究者が似た実験をした。
ところが、新しい太陽系形成論により、原始地球の大気の主成分は,還元的ガス(水素・メタン・アンモニアなど)ではなく、酸化的ガス(二酸化炭素・水蒸気など)だと考えられるようになった。そこで、酸化的ガスでユーレイ‐ミラーの実験をすると、合成されるアミノ酸や核酸の種類や生成量が,激減してしまった。
ユーレイ‐ミラーの実験以外にも、生命の起源に関しては、原始海洋の熱水噴出系を想定したものや、粘土鉱物を考慮したものなど、多くの研究がなされている。
一方、マーチソン隕石(1969年オーストラリアに落下)には、アミノ酸などの有機分子が発見された。興味深いことに、含まれる有機物の存在度は化学進化の実験で形成される有機物の存在度とよく対応している(表1)。また、ハレー彗星の探査(1986年)でも、彗星の核に大量の有機物が発見された。こうしたデータに基づいて、生命の起源物質が地球外からもたらされたと主張する研究者も多い。