マータには、始めて聞くコスモス教授の話がなんのことかまったくわかりませんでした。
「銀河が遠ざかっている……」
マータはつぶやきました。
コスモス教授は、マータが星の世界についてまだあまり学んでいないことに気づきました。
「そうだ。マータ、ミュージアムのライブラリー・コーナーに行ってみよう。そこでもう少しくわしく話をしよう。さあおいで」
コスモス教授はやさしくマータに語りかけました。
いつの間にか二人はライブラリーの中にいました。
「ハッブルは、たくさんの銀河を観測して、遠い銀河ほど速い速度で遠ざかっていることを見つけたんだ。ハッブルは2つのことをやった。一つは銀河までの距離を測定した。もう一つは、銀河の運動速度を測定したんだね」
コスモス教授は、コンピュータの画面に資料を表示させようと、画面のタッチボタンを操作しながら話しています。
「星までの距離……」
マータは小さい声でつぶやきました。これまで星までの距離なんて想像したことがなかったのでした。
「ここに距離を測る方法が表示されている。ちょっとみてごらん」
コスモス教授はマータに話しかけました。
「距離を測定するには、三角測量と呼ばれる方法を使うんだね。三角形の底辺の長さをまず測る。それから底辺の端に立って遠い対象物までの角度を測定する。そうすると三角形が一つ描け、その頂点として対象物の位置が決まるんだ。底辺の端で測った角度が大きいほど頂点は遠いところにあるってわけだ」
「図形の話なら学校で習ったことがあるわ」
ようやくマータの顔に笑顔がもどりました。
「実際、1588年に月までの距離を測定しようとしたティコ・ブラーエという天文学者が、いま説明した三角測量を使ったんだ」
コスモス教授は、地球上の遠く離れた地点で月の方位を示した図を表示させながら言いました。
「月までの距離は38万キロ。月は地球の半径の60倍のところにあるんだ」
「地球の半径の60倍……」
マータには月が遠いところを回っているような気がしていましたが、たった60倍と思うと、以外と近いところにあるような気がしてくるのでした。
「次は、もっと遠いところにある恒星までの距離。それを測定するには三角形ととてつもなく大きく描かなくてはいけない。マータは、地球が太陽の周りを回っていることは学習したのかな?」
「うん。学校で……」
「よし。じゃあ話は簡単だ。この図のように太陽のまわりを回る軌道の2点で星を観察するんだ。そうするとほんのわずかだが、見える方位に違いがあって、精密な天体望遠鏡なら、わずかな角度のずれを測定できるんだ」
「その角度が2秒、すなわち1度の60分の1が1分だから、そのまた30分の1という角度のとき、その星までの距離を1パーセクと呼ぶんだ。1パーセクは、光の速さで3.26年。地球と太陽の距離のおよそ20万倍の距離になる。それで、太陽にもっとも近い恒星はケンタウルス座のα星っていうんだが、それは4.3光年の距離にあるんだ」
「ケンタウルス座のα星……4.3光年!」
マータはあまりにも遠く離れているような気がして、小さい声でつぶやくのが精一杯でした。
コスモス教授は、そんなマータを見ていいました。
「ビッグバンの部屋にもどろうかね。銀河の運動速度の測定や、ハッブルの研究はまた今度にしよう」