ケプラーの法則
 
「やあ、マータ。また来たね。今日はなにを調べにきたのかな?」
そう言ってコスモス教授はマータを迎え入れました。
「太陽についてもっと知りたいなあって思って……」
マータはちょっと恥ずかしそうにいいました。
「よし。それじゃあ、話をしよう。太陽について調べるには、太陽がどれくらい大きいか見積もる必要があるんだ。このミラクルミュージアムでは、知りたいって思ったことを調べて覚えるところじゃない。もっと大事なことは、どうやってわかったかっていうことを調べることなんだ」
「マータ。太陽までの距離は1天文単位だったね。1天文単位というのは太陽と地球の距離のことだが、実際に何キロなのかわからなくては距離の感覚がわからないね」
そう言われたマータは1天文単位ってどれくらいなのか気になっています。
「太陽って、月より遠くにあるんでしょう」
マータは確かめるようにコスモス教授に聞いてみました。
「そうだ。月よりずっと遠い。だから距離を測るのも大変なんだ。太陽系には9つの惑星があったね。実は、それらの運動に規則性がみつかって天文学は大きく進歩したんだ」
惑星の運動。またマータには初めて聞く話です。
「夜空に浮かぶ星のほとんどは、見かけの位置を変えない星だ。だから去年みた星座と今年みる星座は、まったく同じ形をしている。だけど、惑星は次第に星座の間を動いて、位置を変えていく。それで惑星っていう名前がつけられているわけだ」
「へえー、そうなんだ。いろんな名前にもわけがあるのね」
「さて、16世紀にティコ・ブラーエという天文家がいて、一生、火星の動きを観察して記録に残したんだ」
「一生、星の観察……すごーい!」
マータは、また驚いてしまいました。生涯星の観察をしている人がいたなんて思ってもみなかったのです。
「そう。その記録をケプラーという人が詳しく研究して、ケプラーの法則って呼ばれる規則を発見した。その第3法則は公転周期の2乗は軌道半径の3乗に比例するというもので、1619年に発表されたんだ」
「公転周期?」
「惑星が太陽の周りを一周する時間だ。地球では1年なんだが……。軌道半径は惑星と太陽の距離のことだが、いいかね」
マータは、パソコン画面の表示をみて、いままでの話を確かめています。
コスモス教授は、再び話始めました。
「しばらくして、イギリスのニュートンが万有引力の法則を発見し、ケプラーの法則を理論的に証明したんだが……。ニュートンがリンゴが木から落ちるのをみて、引力の法則を発見したって話は聞いたことあるだろう」
「はい。でも、リンゴが木から落ちることが、天体の動きが関係していたなんて……」
「ところで、マータ、“火星大接近”って聞いたことあるかな? 火星は地球の外側を回っていて、約2年ごとに地球に接近する。そのときはちょうど夜中の12時ぐらいに真上に見えるんだ。この大接近から次の大接近までを会合周期っていうんだが、これは地球と火星の公転速度によって決まっている。だから会合周期がわかれば火星の公転周期がわかる。公転周期がわかれば、火星の軌道半径がわかるわけだ」
マータはコスモス教授の説明についていけなくなっているようです。
「惑星の動きを調べると、惑星の軌道半径がわかるってことはいいかな? 同じように金星の軌道半径も求めることができて、その値は0.7天文単位になる。金星は地球に一番近い惑星なんだね。それで、金星に電波を当てて帰ってくる時間を測って金星までの距離を求めるっていう方法が使われて……地球から太陽までの距離が約1億5000万キロっていうことになったんだ」
「はあ」
マータはため息に近いような声で答えました。
「ケプラーの法則や、ニュートンの法則は、もっと大きくなったら学校で習う。心配はいらないよ」
「それより、いろんな物事もつきつめて考えるってことが大事だね。いま太陽までの距離がわかったから、今度は太陽の大きさがわかるんだ」

Copyright © 2002 Shin-ichi Kawakami(川上 紳一)