さまざまな仮説

複合原因説

大量絶滅の複合原因。ズーム
大量絶滅の複合原因。
磯崎 1995] from [Erwin 1993
生物大量絶滅の原因として、さまざまな環境変動が考えられてきた。しかし、どの仮説もペルム紀末の事件を説明するには不十分である。これまでの仮説を整理したErwin (1993; 1994)は、これらの出来事が複合して生物大量絶滅が起こったと主張している。

天体衝突説

この説は、白亜紀末の恐竜絶滅を説明する仮説として、1980年以降大きく注目されるようになった。この仮説を受けて、他の地質時代境界でも天体衝突が起こり、生物の大量絶滅があったのではないかと考えられた。P/T境界層でもイリジウムの異常濃集や衝撃変成作用を被った岩石、鉱物の探査が行われたが、天体衝突を示唆する有力な証拠は得られていない。
白亜紀末の事件に関しては、天体衝突によってクレーターから大量の塵が巻き上げられ、太陽光が遮られて気候が寒冷化し、生物の大量絶滅が起こったのではないかと考えられている。

超新星爆発説

ペルム紀末の生物大量絶滅が、激変的だったとしたシンデヴォルフはその原因を地球外に求めた。彼は、太陽系の近くで超新星爆発が起こり、その放射能で多くの生物が絶滅に追いやられたと主張した。
この仮説に対し、大量の放射能を浴びても生物種が一斉に絶滅するとは限らないこと、水中では放射能が遮られる可能性があるが、海棲生物化石に絶滅の影響が明瞭にみられたことが難点であると反論されている。

1次生産低下説

Bramlettte (1965)は、光合成生物の1次生産が低下したことで、海棲生物の食物連鎖が崩壊し、多くの生物が絶滅に追い込まれたと主張した。地球史でそうした状況が出現したことがあったかもしれないが、P/T境界で生物1次生産が低下したことを支持するデータや反証するデータはない。

気候変動説

気候変動が生物大量絶滅の原因となったという仮説である。古生代後期にゴンドワナ氷床が発達し、気候の寒冷化が起こったが、温暖な気候で形成されると考えられている赤色砂岩が広く堆積した時代も含まれており、激しい気候変動が起こったと考えられている。古生代のこの激しい気候変動にも関わらず、古生代末に限って生物大量絶滅の原因となったとは考えにくいという批判があった。Stokes (1960)は、気候の変化によって海洋循環様式が変化して、海棲生物の絶滅が起こったと述べている。
Dickins (1983)は、ペルム紀末に気候が温暖化して生物大量絶滅が起こったと発表たが、まったく注目されなかった。Stanley (1984;1988)は、ペルム紀末に一時的に寒冷化したと述べているが、この時代に汎世界的に寒冷化したかは疑わしい。

塩分濃度変化説

古生代後期にゴンドワナ大陸が南極域に分布しており、巨大な大陸氷床が発達した。気候が温暖化してゴンドワナ氷床が融けて、海水塩分濃度が低下したため、生物大量絶滅が起こったという考えがあった。
フィッシャーは、1964年、古生代後期に大規模な蒸発残留岩が形成されたため、海水の塩分濃度が低下したと考えた。これに対し、Bowen (1968)は、ペルム紀末に海水の塩分濃度は現在のレベルよりも20%も高かったと述べた。

海水準変動説

顕生代の生物大量絶滅事件は、海水準が低下した時期に起こっているという指摘は古くからある。ペルム紀末から三畳紀初期に堆積した地層が乏しいことから、この時代には海退が起こったことが示唆されている。
では、海水準が低下するとなぜ生物大量絶滅が起こるのか。その説明に使われるのが、一定面積に生息できる西部種には限度があるという考え(species‐area relation)である。海水準が低下すると、多様な生物が生息する浅海域が失われる。そうすると生息面積の減少によって、生存できない生物が出現することになる。
海水準の低下によって、食料不足、微量元素中毒、地域格差の消失など、生息域の減少以外にも生態環境が変化する可能性がある。しかし、90%もの生物種が一斉に絶滅へと追いやられるかは疑問が残る。

造山運動説

造山運動によって生物圏が影響を受けるという見解は、19世紀はじめに活躍した地質学者エリ・デ・ボーモン以来、古くからある。しかし、造山運動は地域的スケールで起こっており、グローバルで同時性の環境変化を引き起こすとは考えにくいとされている。
生物大量絶滅にテクトニクスが関与した可能性を重視する研究者がある。彼らは、ペルム紀末の生物大量絶滅が5.4億年の顕生代のまれにみる大事件であると考える。顕生代の地球史の中で、古生代末に起こった特異な事件として、大陸が集合して巨大な大陸ができたことが挙げられる。そこで、パンゲア大陸の形成と分裂を、これまでに述べたさまざまな原因の究極の原因と位置づけて、因果関係を究明しようと試みられている。
文献
Erwin, DH. 1993. The Great Paleozoic Crisis: Life and dearth in the Permian. Columbia University Press.
磯崎行雄. 1995. 古生代/中生代境界での大量絶滅と地球変動. 科学, 65, 90–100.
Rhodes, FHT. 1967. “Permo‐Triassic extinction”. The Fossil Record. London, Geological Society (UK), p.57–76.