ハッブルの法則、銀河との距離と視線速度の比例関係
ハッブルの法則
 
コスモス教授とマータはミラクルミュージアムのラウンジへ来ています。
「ちょっと疲れたから、休憩しよう。マータはオレンジジュースでいいかい?」
そう言ってコスモス教授はジュースとコーヒーを注文しました。
「天文学っていうのは、星からやってくる光を研究する学問なんだ。その道具が天体望遠鏡だったり、巨大なパラボラだったりする。星からの光にはいろいろなメッセージが書かれている。それを読み出すのが天文学者の仕事なんだ」
「星からくるメッセージを解読する……なんだかロマンチック!」
マータは大きくなって星の研究をしてみたくなっています。
「そうだね。私も子どものころ宇宙のことを研究したいな~なんて考えていた。でも実際に、星の研究を始めると数学や物理学といった学問を勉強する必要があることがわかるんだ。やりたいことがやれるように……そのために小さいうちから算数や理科なんかを学習しておく必要があるんだ」
「うん。学校の勉強もちゃんとやる」
マータはそういってオレンジジュースを一口飲みました。
「さて、宇宙が膨張していることを示したハッブルの話をしよう。これまで話をしてきたことは、星の研究についてだったね。ハッブルが研究を熱心に始めたころ。1930年ごろなんだが……その頃になると天文学者の興味は個々の星から星の集まり……そう、銀河に移っていったんだ。そのころには星までの距離だけじゃなくて、遠い銀河までの距離も測定できるようになっていたんだね」
マータはコスモス教授の話を聞きながら、ハッブルという天文学者がどんな研究をしたのか知りたくなっていました。
「ハッブルは、銀河の動く速さを測定したんだ」
夜空の星が動いているなんて考えたことのなかったマータには、またまた信じられないような話です。
「銀河が動いている? 本当に? でもどうしてそんなことがわかるの?」
「そりゃあ……わかる」
コスモス教授の確信に満ちた強い口調にマータのゆらいだ心は静まりました。
「マータ。救急車が走っている音を聴いたことがあるだろう」
「ええ」
突然の救急車の話にまたまたマータはとまどった様子。
「救急車が近づいてくるときと、遠ざかっているときで音が違わないかい。近づいてくるときは、高い音色。遠ざかる時は低い音色なんだが……」
そう言ってコスモス教授は救急車の音をまねてみせました。
「確か。聴いたことあるわ」
「そうなんだ。救急車のサイレンは同じなのに走っていると音色が変わるんだ。それをドップラー効果っていうんだが……音色の変化が車の走る速度で決まっている。星や銀河からやってくる光にはいろんな波長の光が含まれていたね。そこである特徴的な波長の光に着目して本来の波長と、実際に観測で測定される波長を比較するんだ。そうすれば星や銀河の動く速度がわかるわけだ」
「すごーい。ハッブルって天才みたい」
「そうだね。ハッブルは偉大な天文学者んだ。銀河までの距離と動く速さを求めたんだから。それでわかったこと。それは遠くの銀河ほど速い速度で遠ざかっていた。しかも距離と速度が一本の直線で表示される。この関係を使うといろんな距離にある銀河の動きを過去へさかのぼって逆算すると、ある時点で研究されたすべての銀河が一点に集まることになる。これが宇宙の膨張の始まりの時だ」
「なんかむずかしそう……」
「いまここに友達が集まっているとするだろう。A君は徒歩で、B君は自転車で、C君はお父さんの来るまで一斉に東へ走っていると想像してごらん。それぞれの乗り物で遠ざかる速さは違うね。それに距離もだんだん差が大きくなっていくだろう」
「あっ、そういうことかあ」
「それからもう一つ大切なこと。銀河の動きを逆さにして一点に集まるまでの時間。それが宇宙の年齢になるんだ」
コスモス教授のたとえ話でようやくわかった気がしてきたマータなのでした。

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