ホウ素の地球化学サイクルの解明

しかし、ホウ素は海底堆積物に取り込まれたり、炭酸塩岩として堆積するなどして海水中から失われる一方、河川水の流入や海嶺での熱水活動によって供給されている。河川の流量や熱水活動が変化すれば、海水中のホウ素の濃度や同位体比が変化するにちがいない。海水中におけるホウ素の滞留時間は約2000万年なので、長期間にわたって海水のpHや大気中の二酸化炭素濃度の変遷を探るには注意が必要である。Lemarchand et al. (2000)は、世界各地の22の河川水を集め、ホウ素濃度とホウ素同位体比を測定した。結果は、濃度も同位体比も河川によって異なった値を示しており、アマゾン川から供給されるホウ素は、世界の河川供給量の10%を占めることが明らかにされた。これは、気候変動や後背地の岩石組成が変化すると海水のホウ素収支が大きくずれ、海水組成が時間とともに変化する可能性を示唆している。Lemarchandらは、簡単な地球化学サイクル・モデルでシミュレーションをして、Pearson and Palmerが得たホウ素同位体比の永年変化を再現し、その原因はpHの変化ではなく海水組成そのものの変化だと主張した。
炭酸塩鉱物のホウ素同位体比を用いて、長い時間スケールにおける大気中の二酸化炭素濃度の変遷を推定するには、海水のホウ素同位体比の永年変化を明らかにしたうえで、pH変化を見積もる必要がある。
表 河川水におけるホウ素の存在度とホウ素同位体比
文献
Lemarchand, D; Gaillardet, J; Levin, É; Allègre, CJ. 2000. The influence of rivers on marine boron isotopes and implications for reconstructing past ocean pH. Nature, 408, 951–954.