気候変動の原因を探る

気候変動には、数年から数十年という短い時間スケールの変動と、数千年から数万年という長い時間スケールの変動があり、それぞれの原因は異なる。
短い時間スケールの気候変動の原因は、火山噴火や太陽光度の変動である。氷期‐間氷期サイクルなど、大規模で時間スケールが長い気候変動には、大気中のCO2(二酸化炭素)やCH3(メタン)濃度の変動も関連しているが、後で述べるようにそれらを引き起こす炭素循環のしくみはよくわかっていない。
気候変動の将来予測における重要な問題に、これまでに述べた温室効果ガスの増加が上述した平均地表気温の上昇の原因となるかどうかがある。

短い時間スケールの気候変動

年輪密度から復元された気温と、火山活動の関係。ズーム
年輪密度から復元された気温と、火山活動の関係。
細く黒い実線は、復元された気温。19世紀末からの、太く黒い実線は、実際の気温。
Briffa 2000
歴史時代の気候変動には数年から数十年スケールの変動成分が大きく、その原因は火山噴火と太陽光度の変動であろう。
歴史時代の火山活動は、古文書の記載、地質学的証拠、あるいは氷床に含まれる火山灰や火山ガス起源の酸性物質の濃度から復元される。図は、年輪変動から得られた短周期の気候変動指標と火山噴火の対応関係である (Briffa et al., 1998a)。
火山噴火で発生するエアロゾルは気温を下げるが、エアロゾルの大気中での滞在時間は1年程度なので、長期的な寒冷化の原因にはならない。ただし、17~18世紀の小氷期 (ヨーロッパなどの寒冷化) は、大規模な火山噴火が頻発したからだとも言われる。
一方、太陽活動の経年変化は、太陽黒点数の変動やオーロラの出現記録などから予想されていた。
エディーが1976年に、樹木年輪の炭素同位体比から実証した。エディーは、大気中の窒素分子に宇宙線が衝突してできる炭素14の生成量を測定し、宇宙線の照射量が太陽磁場の影響で変動していることを利用して、過去の太陽活動を復元した。そして、16~17世紀の太陽黒点の激減と、小氷期とを対応させ、因果関係を考察した。
過去400年間の、太陽光度の変化。ズーム
過去400年間の、太陽光度の変化。
Mann & Bradley 2000
その後、樹木年輪の他に、氷床に含まれるベリリウム10からも太陽活動の歴史が研究された。図に、リーンら (Lean et al.; 1995) が求めた1610年以降の太陽光度の変遷を示す。太陽光度は17世紀以降、長期的には増加し、19世紀までの平均地表気温変動の30–50%は太陽光度の長期的変動で説明できる (Crowley and Kim, 1996; Crowley, 2000; Stott et al., 2000)。
このように、産業革命以前の平均地表気温の変動は、火山噴火と太陽光度の増減によってほぼ説明できる。しかし、20世紀後半の温暖化傾向は、これらでは説明できず、温室効果ガスの影響だと考えられる。

長い時間スケールの気候変動

過去数百万年間の気候変動は、約10万年周期の、氷期と間氷期のくり返し (氷期‐間氷期サイクル) である。氷期‐間氷期サイクルの原因は、過去150年間、地球科学の重要課題だった。
氷期‐間氷期サイクルの原因は、地球の軌道要素と地軸の傾きが変動することによる、太陽放射量の総量や地理的分布の変動である。この変動は、最初に定量的に検討した学者の名前から、ミランコビッチ・サイクルと呼ばれる。
ミランコビッチ・サイクルは、氷期‐間氷期サイクルを決める、ペース・メーカーの役割を果たしている(e.g., Petit et al., 1999)が、軌道要素の変動による日射量の変動は、そのままでは氷期‐間氷期サイクルを引き起こすには足りない。気候システムの中に、変動を増幅するしくみがあるはずだ。
過去40万年間の、気候と温室効果ガス濃度の変遷。ズーム
過去40万年間の、気候と温室効果ガス濃度の変遷。
Reprinted by permission from Nature Petit et al 1999 Figure 3 copyright 1999 Macmillan Publishers Ltd.
数十万年間の氷期‐間氷期サイクルを復元するには、グリーンランドや南極の氷床、海底・湖底堆積物などを用いる。
氷床には、過去の大気が気泡として取り込まれている。それを分析すると、氷期‐間氷期サイクルに対応して、CO2やメタン濃度が変化していた (たとえば、Petit et al., 1999)。
氷床コアの分析結果によれば、CO2は180~280 ppmv (体積100万分率)、メタンは350~700 ppbv (体積10億分率) の間で濃度が変化している (図)。これは、地球表層の炭素循環が、氷期‐間氷期サイクルと密接にかかわることを示しているが、炭素循環が数百年以上の長い時間スケールでどんな変動をするかは明らかではない。
また、時間分解能を上げて詳しく分析すると、CO2やメタンの濃度が上がる約800年前に気温が上がる。だとすると、因果関係があるとしても、温室効果ガスの増加が温暖化の原因ではない (Fischer et al., 1999)。

ダンスゴー‐エシュガー・イベント

世界各地の気候変動の対比。それぞれズーム
世界各地の気候変動の対比。それぞれ
  • (a) 氷床コア
  • (b) 浮遊性有孔虫化石
  • (c) 全有機質炭素量
  • (d) 底棲有孔虫
  • (e) 氷床による砕屑物
  • (f) 浮遊性有孔虫
  • (g) 帯磁率
  • (h) 湖成堆積物の花粉
  • から得られた気候データ。
    Sarnthein et al. 1999
    氷期‐間氷期サイクルのほかにも、注目すべき気候変動はある。主に北大西洋沿岸では、氷期の中の短い(1000~3000年)温暖期があり、ダンスゴー‐エシュガー・イベント(以下D‐Oイベント; ダンスゴーはダンスガードとも)と呼ばれる。
    このことは、グリーンランドの氷床コアから明らかになった。D‐Oイベントでは、とつぜんに約10℃の温暖化が起こり、それに続きゆるやかに寒冷化する。最終氷期(12万~1万年前)にはD‐Oイベントが、約2000年に1度の頻度で24回起こった。(最終氷期の初期は記録が乏しいため、回数は期間÷間隔よりやや少ない)
    D‐Oイベントの始まりである急激な温暖化の前に、ハインリッヒ・イベント(北大西洋に大きな氷山が流れ出すこと)が起こることが多い(Bond and Lotti, 1995)。このことから、D‐Oイベントにおける北大西洋地域の気温変動は、海洋深層水循環の強弱と相関している。氷山により北大西洋の海水が冷やされて沈み、北大西洋深層水の流れが強まると、南から温暖な表層水が北大西洋の最北部にまで流れ込んで気候が温暖化した。
    北大西洋地域のD‐Oイベントは、海洋深層水循環の強さを変動させることで、世界各地の気候変動と関連している。また、数千年スケールの温暖化と寒冷化のくり返しは、地球全体でほぼ同期しているようだ(図)。だが、気候変動に関連する現象の因果関係を明らかにするには、今まで以上に時間精度の高いデータを世界各地から取得して対比しなければならない(Sarnthein et al, 1999)。その実態を解明することで、突発的な温暖化がどこで始まるかも明らかになるだろう。
    南極とグリーンランドの、氷床コアから復元された気候変動の対比。双方でメタン変動が同時だと仮定している。Blunier & Brook  2001ズーム
    南極とグリーンランドの、氷床コアから復元された気候変動の対比。双方でメタン変動が同時だと仮定している。
    Blunier & Brook 2001
    その試みを紹介しよう。近年、南極の氷床コアと、グリーンランドの氷床コアとを対比できるようになった。大気中のメタン濃度が世界中で一定であることから、メタンの濃度の変動パターンを一致させると、双方を比べることができる(図)。
    その結果、北大西洋で急激な温暖化が始まった時期は、南極地域では温暖化のピークに相当しており、南極地域の気温変動は北半球のそれと比較して約1000年先行していた(Blunier et al., 1998; Blunier and Brock, 2001)。特に、最終氷期末(約1万年前)、北大西洋地域で温暖化が起こったベーリング‐アレレード期に、南極では寒冷化(ACR; Antarctic Cold Reversal)しており、北大西洋地域が寒冷化したヤンガー・ドリアス期に、南極は温暖化している。このように、温暖化と寒冷化が北と南で逆になる現象は、バイポーラ・シーソー(bipolar seesaw)と呼ばれる。バイポーラ・シーソーは、温暖化・寒冷化の原因を解明する有力な手がかりとなる。この変動には、北大西洋と南極以外にも、インド洋海面温度の低下も関連しているようだ(Stenni et al., 2001)。
    海洋循環のモデルによると、北大西洋の海洋深層水循環が弱まると冷たい海水が地表付近に留まって北半球が寒冷化し、逆に南氷洋で深層への冷たい海水が活発に潜り込んで温暖化が起こる。この研究は、深層水循環の変動が数千年スケールの気候変動の原因であることを強く示唆する。
    最近、、ダンスゴー‐エシュガー・イベントをうまく説明する気候モデルが現れた(Ganopolski and Rahmstorf; 2001)。それによると、北大西洋の深層水循環には2つのモードがある。これらは沈み込みの緯度が違い、北のグリーンランド沖で沈み込む〝温暖モード〟と、それよりは南のアイスランド沖で沈み込む〝寒冷モード〟とがある。
    寒冷モードは安定だが、温暖モードは不安定で、しばらくすると寒冷モードになる。また、ハインリッヒ・イベントで北大西洋の表層水が冷やされると、一時的に北大西洋深層水の潜り込みが停止する〝停止モード〟になるが、このモードも不安定で、再び寒冷モードへと戻る。
    このモデルでは、現在の温暖な気候状態では、温暖モードと停止モードが安定で、寒冷モードに遷移することはない。このように、このモデルは過去1万年間の気候がなぜ安定なのかや、先に述べたバイポーラ・シーソーを含めて、最終氷期における気候の不安定を大まかに説明できる。このモデルにより、気候システムの安定性に関する理解は大きく前進したといえよう。
    文献
    Blunier, T; Chappellaz, J; Schwander, J; DäLlenbach, A; Stauffer, B; Stocker, TF; Raynaud, D; Jouzel, J; Clausen, HB; Hammer, CU; Johnsen, SJ. 1998. Asynchrony of Antarctic and Greenland climate change during the last glacial period. Nature. 394, 739–743. [the whole]
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    Petit, JR; Jouzel, J; Raynaud, D; Barkov, NI; Barnola, J-M; Basile, I; Bender, M; Chappellaz, J; Davis, M; Delaygue, G; Delmotte, M; Kotlyakov, VM; Legrand, M; Lipenkov, VY; Lorius, C; Pépin, L; Ritz, C; Saltzman E; Stievenard, M. 1999. Climate and atmospheric history of the past 420,000 years from the Vostok ice core, Antarctica. Nature. 399, 429–436.
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