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金星の動きと形の変化
中学校理科授業における実践


双眼鏡とにぎりこぶし法でチャレンジ

 首を長くして待った双眼鏡が届いた。ようやくクラス全員による金星観察ができるようになったのだ。あとは、天気だけが問題だ。金星は日増しに大きくなっているし、いずれ明確な形が見えるようになるだろう。このころになると、金星は西の空へ移動しており、夕焼け空にひときわ明るく輝いている。天文年鑑によると、2月22日にマイナス4.6等星で最大輝度になる。それからは、金星はどんどん高度を下げていく。地球に近づいてくるので形は大きくなるが、太陽からの離角は小さくなるので、やせ細っていくわけだ。2月下旬から3月上旬が観測の山場になるにちがいない。

 「いま南西の空に金星が明るく見えるので、みんなで観察してみよう」
 「みんなが習ったように、金星は地球の内側を回っており、地球に近づいてきています。金星がどんな形になっているか双眼鏡で調べてみよう」
 そう言って山田は、双眼鏡のはいった段ボールを机のうえに差し出した。第1時間目の授業の始まりである。生徒たちのあいだからどよめきが起こった。双眼鏡を使って金星の観察ができるとは予想していなかったからである。山田は、これから3月にかけて金星の位置が大きく西へ向かって移動すること、それにともなって形も大きく欠けていくことを説明した。そうした変化を継続的に観察して確かめようというわけだ。

 まず、金星の位置をスケッチするための基礎・基本を徹底させた。「にぎりこぶし法」で天体の高度を測定することは、すでに恒星の観察で実践していた。この授業では、金星の位置の観察という新たな課題へ向けて繰り返し練習させ、測定のばらつきが小さくなるように指導した。

 続いて生徒一人ひとりに双眼鏡とインターネットから取り出した金星の画像のコピーを配布した。1月からの画像を比較すると、金星の形が徐々に変化していることがよくわかる。生徒たちは、その日の夕方見える金星の形を心にイメージした。そこには、実際に双眼鏡を覗きながら「欠けている金星はこれまで一度も観たことがない」などと話ながら、わくわくしている生徒の姿があった。


[はじめに]
[1.金星の満ち欠けを観察しよう]
[2.双眼鏡を使ってみませんか]
[3.天体望遠鏡はすごい!]
[4.指導計画]
[5.双眼鏡とにぎりこぶし法でチャレンジ]
[6.天体望遠鏡の組み立てキットがあった]
[7.天体望遠鏡を作る]
[8.やせ細った金星]
[9.まとめの授業]
[10.生徒の反応]
[11.授業をおえて]
[おわりに]