川上研究室に戻る
金星の動きと形の変化
中学校理科授業における実践


おわりに

 2002年春、金星はふたたび宵の明星として西の空に大きく輝くようになる。今回は最初から天体望遠鏡を導入し、金星の位置と形の変化に関する観察を重視した授業を行っていきたい。今回は、長良中学校でしか実践していないが、次は岐阜県下の市町村の教育委員会や岐阜市周辺の小中学校と連携し、授業実践の輪を広げていきたいと考えている。

 目先の成果や授業効果が重視されるご時世であるが、金星の観察をとりいれた授業を実践した二人は、今回の経験から、もっと遠い未来もみつめている。双眼鏡や天体望遠鏡を探し回ってわかったことであるが、観察や実験をとりいれた授業が減るなかで、天体望遠鏡メーカーも廃業においやられるところがでているそうである。よい教材を作っているメーカーが営業成績が悪くつぶれてしまったら、感動を与える授業を実践することは不可能になってしまうだろう。楽しい授業を追求したり、インターネットで容易に情報が手にはいるようになった反面、基礎的な教材が教室の隅に追いやられたり、教室から消え去ったりするようなことはあってはならない。そうしたことに認識を新たにしたことは、大きな収穫であった。

 同じことは教員養成や社会における人材開発にもそのまま当てはまるにちがいない。子供たちは次の時代の担い手であり、大人になるまえの段階ではさまざまな可能性を秘めている。今回授業を受けた生徒の中から、自然に接する喜びを肌で感じ取り、将来プロの天文学者あるいはアマチュア天文家を目指す若者にまで成長したらどんなにかすばらしいことだろう。また、観察や実験を重視する理科の先生が生まれ、同僚として私たちといっしょに仕事ができたとしてもすごいことではないだろうか。

 そんな大それたことにならなくても、金星の満ち欠けの学習が生徒たちの中学生時代の思い出として、時を経ても新鮮な記憶として残らんことを願う。そう思いながら東の夜空を見上げると、

「今度は私も仲間にしてくださいよ」

とでも語りかけているように、火星が赤く瞬いているのである。


[はじめに]
[1.金星の満ち欠けを観察しよう]
[2.双眼鏡を使ってみませんか]
[3.天体望遠鏡はすごい!]
[4.指導計画]
[5.双眼鏡とにぎりこぶし法でチャレンジ]
[6.天体望遠鏡の組み立てキットがあった]
[7.天体望遠鏡を作る]
[8.やせ細った金星]
[9.まとめの授業]
[10.生徒の反応]
[11.授業をおえて]
[おわりに]